「許してやりなさいカズマ。それで、私がどうしたのですか?」
険しい目つきの少年を抑え、サヤは話をうながした。
「そう、サヤ様はこの村で何をなさってるんですか? さっきソラヨミがどうとか……」
ゲイツの問いにサヤは丁寧な回答をくれた。空読とは限られた者にのみ許された気象観測術らしい。アオキ村で空読を行えるのはサヤともう一人、サラという人だけだそうだ。
「農耕が主である村人にとって天候は生命線。だからあなたは村の最高司祭者であると」
「そういうことになります」
「朋然ノ巫女様のお告げに従えば、間違いねえ」
「あぁ、そうだとも」そう言って村人はまたも平伏した。
「そうだ」ゲイツは面白い物を見つけたような顔で言った。
「今日の天気は、どうなるんですかね?」
「あっ……」
「え?」
サヤは口を開けて固まった。ゲイツは頭上にクエスチョンマークを浮かべている。
「あー、皆の衆、これより空読のお告げをいたす」
少年が村人の前に進み出た。
「サヤ様いわく、本日の空は日中晴天、風よく通ること薫風なり。日、やや傾きたる頃より雲立ち込めて……寒雨きたる」
「えっ」
その言葉に広間の村人全員が反応した。
「……変なもの食えばすなわち食当たりを催すゆえ、よく気をつけておくべし」
少年が言いきるとほぼ同時に遠雷が鳴った。格子窓の外から冷湿な風……雨の匂いだ。外で細かいものが地面を叩く音がしはじめた。
「雨だぁあ!?」
村人は飛び上がった。
「水路の蓋を閉めないかん!」
「洗濯物干しっぱなしじゃ!」
「チビ達が帰ってくるわ!」
様々な事情が飛び交う。まさに怒涛。それぞれサヤに辞儀を述べるとあっという間に去っていった。エリサ達はなにか挙動を起こす暇もなく嵐のごとき一連を呆然と見届けた。