運命の出会い

圭と千佳は知り合って一年近くになる。千佳は横浜にあるカトリック系の女子大に通う、明るく元気な二十歳の女子大生だ。千佳の家は鎌倉の先にある海に面した街の逗子にある。二人が会ったのはその街の海岸で、圭がウインドサーフィンをして海から上がってきた時だ。その時も笑顔の千佳が明るく声をかけてきた。その海岸で二人が出会った時、千佳はその海岸に女子大の女友達と遊びにきていて、まるで高校に通う女子学生達のように、ワイワイと騒いでいたのを覚えている。

その日も海から上がってきた圭に、何の屈託もなく笑いかけてくる。そんな可愛い千佳を見て、この娘には男に対する免疫がないように思えてくる。年齢も十歳以上離れており、とても子供っぽく感じてしまう。圭は千佳の横に座り、少し離れた遊歩道を何気なく見る。

そこに一人の中年の男が大きなバッグを持ち、パラソルとパイプ椅子を重そうに抱えてやってくる。男は遊歩道から砂浜に向かい、一人でゆっくりと歩いてくる。圭はその男の人目をひく姿に驚かされる。その中年の男は、南仏のリゾートで見かけるようないでたちで、黒いサングラスをかけている。ビーチショーツの上に半袖の白いキューバシャツを着て、胸には成金趣味の金のネックレスをしている。

男は周囲を全く気にする様子もなく、ちょっと小高い砂浜の上に荷物を置く。この浜には全く似つかわしくない恰好の男は、おもむろにパラソルを広げて砂浜に立て、その下にパイプ椅子を置いている。その場で白いシャツを脱ぎ捨て、セットしたパイプ椅子の上に座ってサングラスをはずし、大きなバッグの中から本を取り出し読み始める。

シャツを脱いだ男の上半身を見ると、その背中から肩にかけ、龍の刺青がはっきりと見えている。サーファー達が集まるこの浜で、龍の刺青をした男など見かけることはない。まるでヤクザ映画にでも出てくる暴力団の組長のようにも見える。龍の刺青をした男が砂浜の上でパイプ椅子に座り、堂々と静かに本を読んでいる姿はとても異様で違和感がある。

そこに遊歩道の方から、セクシーな黒いビキニ姿の女が現れ、刺青をした男が座っているところまで歩いてくる。その女はモデルでもしているようなスタイルで、ショートの髪を後ろに束ね、一見清純そうにも見える。その女の顔は、普通の男ではとても近寄ることができないような、人目をひく知的な顔立ちをしていた。圭は自分好みのその女を一目見て、雷にでも打たれたかのようにハッとするが、その女と刺青をした男が話をする様子はない。

女は男が持ってきた大きなバッグの中から、自分のウエットスーツを取り出し、その場に立ったままでビキニの上から身に着け始める。女はまず両足を通して上までたくし上げ、次に両方の腕を通していく。女は横に座っている男を無視するかのように背中のジッパーを上げ、サーフボードを抱えて海に向かって走っていく。千佳がその様子を見てつぶやく。