一九九七年 ナオミ@社員寮
市役所に行った。窓口の人は申し訳なさそうに告げた。
「離婚や死別なら市営住宅の補助や保育園料の減額があるんですけどねぇ。職業訓練給付金も、未婚だとねぇ」
「未婚と、死別や離婚、同じ母子家庭なのに? どうしてですか」
納得できない。
「国の法律や市の条例で決まっていて。私も変だと思いますが……。どこかの市町村では独自の対策を取っているかもしれませんが、県内の市町村はどこも」
庁舎内に突然、雷鳴がとどろく。
「そんな……」
雷鳴が大気を裂く。
「申し訳ないですねぇ。本当に。子どもの貧困率は、二人親世帯では一割くらいのはずです。でも、一人親世帯では五十パーセントを超えてるんですよ」
「アタシも子どもも、その貧困家庭ってのに一直線……」
ナオミは真っ暗闇に放り込まれたような気がした。椅子から転げ落ちないよう、目の前にあるカウンターを両手で掴んだ。
爆発音のような落雷の響きが体にぶつかる。
「せめて、父親側から認知されれば、養育費の請求ができるんですけど……」
「認知してもらえれば」
オウム返しした。腹の底に響く雷鳴が続く。
「それから、子どもがいても、独身扱いの税率です。将来の高齢者の社会保障を支えるのはあなたの赤ちゃんたちなのに」
ナオミはため息が止まらない。
「あの、なんとか、なりませんか?」
「裁判を起こすにしても相手の方の場所が不明とのこと、弁護士の無料相談の機会もありますが数年を覚悟する必要があります」
「その間に、アタシ一人で産んで育てるのに? 時給の仕事しながら?」