⑵電子顕微鏡の発明
[質問]「細菌より小さく濾過性病原体と呼ばれて、光学顕微鏡でも見えない正体不明のウイルスは、どのようにして確認されたのですか」
1932年に、ベルリン工科大学のクノルとルスカによって、電子顕微鏡が発明されました。当初は、あまり精度が高くなかったのですが、ドイツのジーメンス社の研究チームによって改良されて、1940年には性能の高い電子顕微鏡が製作され、これまで姿なき病原体とされていた濾過性病原体の存在を初めて確認することができました。
世界の科学者たちは、電子顕微鏡に映し出された濾過性病原体の大きさが約100万分の1mmで、細菌の約100分の1位しかない極く微細な病原体が存在することを知り驚愕しました。
電子顕微鏡は、高度の真空状態に保った装置で、構造図(図表1)のように、可視光線の代わりに陰極の電子銃から放射される電子線を用いており、レンズの代わりに、電子レンズ(注1)によって電子線を屈折させて、その電子線を対象物に当てて拡大し、その像を蛍光板上に映して見る装置なのです。
電子は、物質であると同時に高速の電子線は波動性をもち、その波長は、ド・ブロイ波の関係式によって、電子を加速する電圧によって決まり、電圧が高いほど波長の短い電子線が得られるので、可視光線より短い波長の電子線によって、ウイルスのような超微細なものまで見ることができたのです。
50万Vの加速電圧の超高圧電子顕微鏡では、4万倍の倍率に拡大できます。このように、科学技術の発達は、肉眼でしか観察できなかった世界を光学顕微鏡の世界から、さらに微細なものがいる電子顕微鏡の世界に拡大してくれたのです。
(注1)電子線と電子レンズ:電子は負電荷をもっており、直流高電圧をかけた電子銃より真空中に放出した電子の流れを電子線といいます。電子線は、波動性(物質波)をもち光線がレンズで屈折するように、負電荷の電子線は電界や磁界によって屈折します。
このため、図1のような電界や磁界による電子レンズによって屈折させて集束や拡大することができるので、電子顕微鏡や電子線回折装置などに利用されています。電子レンズの利点は、電界や磁界の強さを変えることで、容易に屈折率を変えられることです。