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リクルートスーツに身を固めて面接を受ける。就職活動らしい活動はほぼ初めての経験だった。
「やる気だけは自信があります! 昔培った根性で……」
今の博樹にはやる気以外にアピールポイントがなかった。
「いや、印刷屋っていうのも簡単ではないんですよ。あっ、そうだデザインのセンスなんかは御社の仕事に……」
何とかアピールポイントを探してみる。
「病気の家族……。いや、家族じゃないんだけど、なんとかしなきゃいけないんですよ」
情にも訴えてみた。今言えることの精一杯を語ってみたが、どれもあまり説得力のある話ではなかった。博樹は四十歳になって初めて就職することの難しさを知った。
「はあ……疲れたぁ」
アパートへ戻るといつものように冷蔵庫のビールを手にしたが、
「いや、今日はやめとくか」
なぜだかそんな気になった。日頃から飲み過ぎなのは十分わかっている。
翌朝はかなり早く目が覚めた。時計の針は六時ちょうどを指している。仕事がない日は大抵九時くらいまで寝ているのが普通だが、この日は違った。昨日飲んでいないので目覚めがいいのだ。早起きのついでにジョギングなどをしてみようかという気になった。
トレーニングウェアなどというものは持っていないが、普段から着ているこのジャージもトレーニングウェアだ。そのまま表に出て体操を始めた。ジョギングコースは駅前商店街を抜けてその先にある公園を一周して戻ってくるというコースだ。ざっと三キロぐらいか。久しぶりの体にはちょうど良かった。八百屋の前を通ると、水撒きをしているおばちゃんと出会った。
「あら、博ちゃん。ジョギングなんて珍しいねえ」
「当たり前だよ! 人間、体力が資本だろう。あんたも食ってばっかりいないで走れよ! わははは。じゃあな」
照れ隠しに毒づいた。博樹のいつもの手である。おばちゃんはくすっと笑って店の中へ消えた。今日は仕事が入っていないので、約束通り秀夫のところへ行くことにした。ジャージのままでは失礼かと思い、ジーンズにジャンパーで行くことにした。