夏山にて1

(まばゆ)い光、蒸し暑い道、のびる夏草

噴き出る汗を流れるにまかせて歩く

土に汚れたスカートに気付かなかったあの(ひと)

朝帰りの電車に並んで座ったぎこちない二人

尾根に近づくと涼しい風が吹く

杉に(おお)われた山道、飛び立つ鳥

酔い痴れて公園で抱き合った二人

思い続けた夢が実現して呆然とした私

夏に入ったばかりなのにカナカナが鳴く

すぐ近くで、向こうで、そして全山で鳴く

酔った挙句(あげく)の間違いとでも思っているのだろうか

木々の向こうはカドミウムグリーンの葉

樹間に見えるは哀しい程の青い山

どうしても逢ってくれないその後のあの(ひと)

「 横たわる紅色服の女 」 ─ 油彩、F10 ─