さびしき男女
雨が絶え間なく降っていた
あの女は言った「雨の日に会うのって
本当に初めてなのね、この一年間」
車の中はハイフェッツの奏でる
チャイコフスキー、バイオリン協奏曲の世界
もうしばらくは会うまいと決めていた
あの女と情けなくももう会っている
自分にはどうも制御できぬ心
車の外は雨の中なるも見事な秋
紅葉の奏でる華やかなる世界
一陣の風にさそわれて枯葉が散る
「ああ、きれい、素敵だなあ」とあの女が言う
「ここは平地より寒いんだ」と私。
さみしき男女を乗せて走る車
雨にうたれて心を反映する落葉
山のふもとの湖の、あの、いつもの
白いレストランへと入って
ワイン「ロゼ」を飲むのが
あの女と私のならい
会うまいと私が想ったことを知らないあの女とのならい
山中の寒い美術館に入って
詩集の挿絵などを見るのは
あの女の心に寄り添うようで
それと知ってか、あの女は人目を盗んで
ツと私にキスをする、気まぐれに ──
雨の中の帰り道、車を止めて「本格的に
キスをしよう」と言えばあの女は
「あなたの返してくれる本はどれ?」
などとはぐらかして、突然
夜中に店をしめて帰る女のさびしさ等を話し出す