第1章

中間地区に一歩足を踏み入れると、駅構内の壁に大きな地図が番地入りで表示されている。地区毎に三色に色分けされた日本地図で、中間地区は薄紫だった。全国六十ヶ所位にバランス良く散っている。俺の住所の番地は、さっきのゲートでもらった個人カードを地図の右下の機械に通すと出るらしい。

カードを入れると地図のある場所が点滅し、住民データとして番地が刻印されて返却された。

「ん……? メッセージ付きだな。……八年ぶりのご帰国、ありがとうございます。あなた様のご住所は……、もと##県のあたりに位置しております……? 県名も廃止かよ。っていうかなんだこの##は。現住所……中間地区B―52―39―27……」

こんな、単なる数字の羅列のみで分かるのだろうか。……とにかく、ここに無事着くことができれば家族に会えるわけだ。

俺はもともと地球から出たかったわけではなく、増えすぎた日本の人口の一時調整のために政府が出した「短期移住計画」の案に乗っただけだ。

プロジェクトが始まって二十年後、五回目の募集だった。その頃は土地の広さ毎に何名の募集をするという明確な要請があり、妹の身体が弱かったので両親は残ったが、俺は面白半分に移住を決めた。本当は一家全員が申し込むことが望ましいとされていた。その分、緑化や自然エネルギー開発の為の土地が空くからだ。しかし俺はすでに一人住まいを考える年齢だったので、国の選考に通ったらしい。

移住するにあたり家族に支援金が支給されることもあり応募者は比較的多かったようだ。

B―52駅からはバスかタクシーで住民データカードを見せると目的地まで送り届けてもらえるという。タクシーは十台ほど停まっており、車のサイズは二人乗りから六人乗りまで選べてカプセル型をしている。前金制で、通貨は変わっておらず、惑星の日本人地区のものと同じだった。

ハイテク風の外観だがしっかりドライバーがいる事に驚く。前方のガラス窓の近くに運転手の椅子があり、後方に客用の区切りのない長椅子のソファがドーナツ状に設置されている。その真ん中には丸テーブル。ソファの座り心地は快適で、飲み物でもあれば長時間でもくつろげる内装だ。

車種は曜日により変化し、観光客にも飽きられないようクラシックカーから最新モデルまで交代制をとっているらしい。運転手は、肉食地区では自動運転を広めているが、他の二地区ではサービス向上の為にあえてドライバーを雇っているのだと言った。