昭和初期にタイムスリップをして、当時の嫁を実体験しているようだと結里亜は思っていた。
「どう考えてもおかしい、具合が悪かったら食事の用意を代わってくれてもいいのではないか?」
実際、三十九度の熱が出た時にもフラフラしながらうどんを作った。結里亜の具合が悪いのをわかっていても、澄子は代わってくれることはなかった。
見かねて恭一が作ると、「息子に作らせた」と澄子に怒られる。これはいじめではないのか。でも、今ここを出るわけにはいかない。
そんな時、結里亜は自分のことを『シンデレラ』だと思って励ました。「いつかきっと幸せな日がやってくる」そう自分に言い聞かせた。出口の見えないトンネルの中をさまよっているようだ。それも氷でできているかのような冷たいトンネル。
「どこからか日が差してこの氷を溶かしてほしい。出口のないトンネルなんてあるはずがない、大丈夫だ」と結里亜は前を向いて歩いて行こうと心に誓った。
お嫁に来て一カ月後、近所に住む同年代の主婦今野一恵が、結里亜の歓迎会をするからと自宅に呼んでくれた。
一恵の家に招かれたことを澄子に言えないまま数日が過ぎた。
ことばを選び前日に伝えると、「誘われたらうちにも来てもらわないわけにはいかないでしょ、今回は仕方ないけど次からはやめてよ」と澄子が言う。
納得はできなかったが返事をして出かけた。