破門 柘植(つげ)(とら)次郎(じろう)

更衣室と控室を兼ねた教室の片隅で呆けていた。付添いの後輩は出て行ったきり戻ってこない。気を利かせたつもりか、それとも気詰まりで逃げたか。いずれにしろ放っておいてくれるのはありがたかった。

やり場のない怒りとやるせなさが胸に渦巻いていた。溜め息で腹がいっぱいになり、早すぎる昼食は半分以上残した。窓から見上げた空いっぱいに白い薄雲が広がっていた。

「灰倉の柘植が二回戦負けだってよ」

「審判の当たり外れも実力の内だよ。気の毒だけど、柘植だって名前で勝ちを拾ったこともあるだろうしな」

「しかしなあ、今年は柘植で決まりだと思っていたけどなあ」

「去年の全中はベストエイトで、柘植さんに勝った人が優勝したんですよね。その人から一本取ったのは柘植さんだけだったんですよね」

本人が近くにいるとも知らず、他校の生徒が大声で噂話をしている。その無神経なバカ騒ぎを目の当たりにして、終わったという実感がじわじわと押し寄せてきた。俺の中学剣道は終わった。いや、訳のわからない大人たちに強制的に終わらされてしまった。

畜生! どうしてこんな終わり方をしなきゃいけないんだ。どうして竹刀を握ったこともないやつが審判なんかやってるんだ。満足に旗を上げられないようなやつに審判なんかやらせるなよ!

心の中で「虎」が吼える。逆流する血液に乗って体中を駆け巡る。

静まれ! こんなところで暴れるな!

俺は心の中に獰猛な「虎」を飼っている。幼い頃は俺自身が「虎」だった。