破門 柘植虎次郎
審判の「勝負!」の号令と同時に須藤が打って出た。
「メーン!」
相変わらず何の工夫もない正面打ち。この程度の実力で公式戦に出てくるなよ。
「お小手だいっぽぉぉん!」
鍔迫り合いから教科書通りの引き小手を主審の目の前で決めて見せる。右肩を叩いてからでもよかったが、さっさと終わりにして次の試合に備えるのが上策だ。
主審をひとにらみして開始線に戻る。剣道の試合は二本先取りの三本勝負。これで三回戦進出だ。
「合議!」
主審が副審二人を呼び寄せた。八の字眉毛がしきりに頷いている。
何だ。三本目の引き小手が合議の対象だろうが、文句のつけようのない一本だったはずだ。現に赤旗は三本上がった。今さら取り消す理由などあろうはずがない。では、何のための合議だ。
副審がそれぞれ所定の位置に戻り、主審が試合場の境界線まで下がっていた俺と須藤を呼び戻す。
「審判への非礼な言動があったと認め、三本目を取り消します。赤、反則一回」