第4話 母と娘のような本妻と側妻

それから三年、文左衛門と源太は仕事もよくやったが、色の道も夜ごと歩き回った。文左衛門が貴船の納涼川床で初めて鶴女と出会ったのは、そんな折であった。天女のような鶴女の不思議な魅力の(とりこ)になって、あっという間に二年が経った。

一見、自由奔放ハチャメチャなところもある反面、けじめをつけることにこだわる文左衛門。ずるずるべったりと同棲するのはいかにもふしだらで嫌だった。何としてもお鶴を妻として迎えたい。結婚というけじめをつけ、お鶴に表通りを歩ませ、喜ばせてやりたかった。

さりとて、二十年余りも苦楽を共にしてきた糟糠(そうこう)の妻、加奈は加奈で、これまた掌中の珠であった。そこで、身内同士で内輪の結婚式と披露宴を催すことにする。文左衛門は鶴女との仲を、お披露目をする段になって改めて、妻と三人の娘にどう打ち明けたらよいものかと思案する。

加奈は、文左衛門が娘ほども年の違う鶴女に首たけになっているのに気が付いてはいたが、艶福家の夫のことだ、またかと、気にも留めなかった。だが、今までの浮気と異なり鶴女との仲は切れることがなかった。そして、ある夜のこと、寝物語に鶴女を妻に迎えると聞いて、太っ腹な加奈もさすがに(それはないでしょう……)と驚く。

「今、何とおっしゃいました」

「驚かせてすまぬ」

「小百合と同い年なんでしょ」

「わかっておる……。わかっておる」

「いいえ、わかっておりませぬ(よもや、丁稚奉公をしていた頃の苦労を、お忘れになったのではありますまいな!)」

「済まぬ、済まぬ。そなたが(つの)を出すのも無理からぬことじゃ」

「妬いているのではございませんよ……」

「お鶴は公家の娘、俺たちがまだ覗いたことのない優雅な世界へと導いてくれそうに思えるのじゃ」

言い訳とも深慮遠謀ともつかぬことを言い出す文左衛門。

(男とは実に勝手なものじゃ。女を掌中に収めると、嬉嬉として囲う。その一方で、女の浮気は許さない。いかにも身勝手な生き物だ)と思う加奈。

だが、夫はまだ四十そこそこ、今や男盛り。仕事も夜の方も文句の付け所がない。精力絶倫の夫のことだ、鶴女を側室としたところで、自分が空閨を(かこ)つこともあるまい。空いているものは使っていただいて結構、と考え直す加奈。

「加奈も(みやび)な世界がどのようなものか、覗いて見とうございます」と、(ほこ)を収める。このように加奈のおおらかな性格のおかげで、加奈と鶴女は死ぬまで妻妾相和し、母娘のように共に幸せな人生を送ることになる。

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