晴天の霹靂
平成25年6月10日
梅澤は、単身赴任で大学の職員宿舎で一人暮らしをしている。先日、北陵医科大学創立40周年記念事業の寄付金募集が送られてきていたことを思いだした。目標総額4百億円ということで、全職員、全国の卒業生、関連企業へ権田理事長名で送られていた。創立当時に、この職員宿舎も建てられたとすると築30年以上が経っている。かなりの老朽アパートである。
梅澤が玄関の鍵を開けようとすると、三井が1枚の紙を梅澤の目の前にかざした。
「教授、詐欺容疑で、石川県○○郡○○一の三、大学職員宿舎403号室を家宅捜査します」と再び宣言した。
「解りましたよ。どうぞ、どうぞ。でも、散らかってますよ」
梅澤は鍵を開けた。
7人の刑事が室内に入ってきた。全員が、「失礼します」と声をかけて入ってきた。
「刑事さんも礼儀正しいんだ」と梅澤は変な感心をした。宿舎には、狭いながらキッチンと3部屋がある。
三井と梅澤はキッチンに留まり、刑事は2人ずつペアになり、3つの部屋の捜査にかかった。
単身赴任の男の一人住処の例にもれず、部屋は雑然というよりも物置に近い状態である。掃除機をかけるのも月に一度あるかないかである。部屋の隅には綿ぼこりが溜まっている。今朝は、ぎっくり腰だったので、布団も朝抜け出した時のままである。
1人の刑事が部屋から顔を出して、「汚い部屋ですね」と梅澤に話しかけて来た。
「済みません」反射的に謝っている自分に梅澤は苦笑した。
三井が、「教授って、もっと好い住まいに住んでるんだと思いました」と話しかけて来た。
「単身赴任ですし、教授って思っておられる程、裕福じゃありませんよ」と梅澤は答えた。
刑事達は黙々と自分の仕事を行っている。梅澤が部屋をのぞくと、刑事が押し入れの天井板を外して中を除いていた。
「そんな所が開くんですか? 10年住んでても知りませんでしたよ」梅澤が声をかけた。