アパートの捜索は一時間程で終了した。これで本当に解放されると思った。
「それじゃ、教授の車を見せてください」
三井が言った。
刑事たちに付き添われて駐車場に向かった。
北陸は医師不足である。難病患者に対処出来る専門医の数は極めて少ない。梅澤は依頼を受け、毎週、100㎞離れた福井県の病院まで車でリウマチ膠原病の外来に出張している。月に一度は、200㎞以上離れた京都府北部の舞鶴にも専門外来に出かけていた。石川県に赴任して以来、月に2度は往復500㎞かけて京都の自宅に帰っていた。
最初の乗用車は、5年目で20万㎞を走破したが、その年の車検に通らず廃棄処分になった。今は、妻の軽乗用車に乗っているが、これも20万㎞に近づきつつある。
梅澤が、軽自動車を刑事達に指し示した。
「ベンツは何処にあるんですか? 教授はベンツに乗るんじゃないんですか?」
「期待に添えなくて悪かったですね。ベンツになんか乗れませんよ。そんなお金ありませんよ」と梅澤が答えた。車の前で写真をとられ、捜索は十分ほどで終了した。
「教授、それでは今日はこれで失礼します。また、何かお聞きしたいことが出来たらご連絡致します」
三井がやっと捜査の終了を宣言した。
刑事たちは2台の高級車に分乗して帰っていった。
梅澤は走り去る車を見送りながら、
「自分たちの方がいい車に乗ってるやん……」と呟いた。