練田は冷静に、
「いえ、決してそういうわけではありません」と裕美の精いっぱいの嫌みをにべもなく受け流し、「それから、ちょっと気になったのですが、そんな高価な物を普通に普段用のタンスの引き出しに入れておられるのですか」と聞いてきた。
裕美は、(まだ疑ってるわね)と思いつつ、「ちょっと、間違えて、普通の物と一緒にしていたのかもしれません。今度から気をつけます」とかわした。さらに練田は、
「そういえば、昨日もお見かけしましたね」と言い、
「昨日は、息子の用事で」と裕美が答えると、
「制服が昨日のと違うような気がしますが、どうされたんですか」と聞いてきた。
裕美は、(さすが女性の先生だけあって、服に気づくとは。どこまでするどいのかしら)
と思った。
昨日のものが正式の社員の制服であったが、裕美はそれが気に入らず、急遽、以前のデザインものを制服に仕立て直したのである。「これが普通ので、昨日のは、たまたまあった古いものを着ただけです」と説明した。練田は言った。
「いずれにせよ、その制服に、その高価なハンカチは似合いませんね」
裕美は、(まだ、疑ってるな、こいつ)と思いつつ、「もうそのハンカチは絶対に持たせないように気をつけます」と言い、席を立った。