裕美がやってくると、練田先生は、裕美に対して、
「これは、ご存じですか。真理ちゃんは、家から持ってきたと言っているんですが、本当にお宅の物ですか」
裕美は驚きのあまり、声が上ずりそうになった。
「当たり前です。えー、ひょっとして、先生、うちにこんなものがあるはずがない、娘がどこかから盗んできたなんて思われてるんですか」
「いえ、そうではありませんが、あまりに、高級な物なので。普通、小学生が使う物ではありませんし、小学生に持たせる物でもないですよ、こんな高価な物。本当に、学校に持っていっていいっておっしゃったんですか」
裕美は、心の中で、(先生も、どろぼうを疑ってしまったことはまずかったと思ってるようだけど、それを認めるわけにもいかないので、今度は、子供の教育上悪いと、親の対応を問題にして、自分の失敗をごまかそうとしているのね)と思った。
「確かに、ブランド物を子供に持たせたのは、よくなかったとは思います。朝、ばたばたしていたもので、つい確認がおろそかになっていたようです。でも、先生は、そもそもうちにはそんなブランド物があるはずがないとお考えになっていたんじゃありませんか。最初、うちの物かを疑っていらっしゃいましたよね。でも、私だって、そのくらいは持っております。そりゃあ、うちは裕福には見えないでしょうけど、そんな泥棒するほど、困ってはおりません」
「いえ、そのように聞こえてしまったのであれば申しわけありません。でも、学校ではいろんなシチュエーションでハンカチが使用されるので、高級な物を駄目にしてしまうこともあるのです。子供には、まだ価値が分かりませんからね。それで、学校に責任とれと言われても困りますし。あまり高価な物を子供が持ってくるのはよろしくないのです」
裕美は、(なるほど、それも正論ね。さすが、先生するだけあるわね)とは思ったが、ちょっとしゃくにさわって、
「ブランド物じゃなくて普通の物、つまり、一番じゃなくて、二番の物でいいじゃないかってことですか」と言った。練田瑞保先生は、言葉がきつくて責める口調で話し、さらにそのきつい正論で次々と責め立てるため、練田ではなく「連打」、さらに姓名を略して、「練保」、千尋小学校の「連打の練保」と呼ばれていたのを思い出したのである。