スーパーにはおれのような育メンベビーカー男はいなかった。そのせいか店員さんが妙に親切に感じられた、華ちゃん効果だとわかった。
華ちゃん用の飲み物を探していたときなどは、いつのまにか店員さんが隣にきていて「こちらなどは三ヶ月くらいから飲めますのでお客様のお子様にも大丈夫かと」とアップルジュースと清涼飲料水を持って来て勧めてくれた。迷わずそれらを買った。
量的に少し多いかとも思ったが、おれも華ちゃんの気持ちになってみたいと思い、同じものを飲んでみることにしたから多くてもいいと思い買ってしまった。華ちゃんの気持ちなんて親でもわからないだろうけど、おれなりに少しでも華ちゃんと同じ感覚を感じたかった。
おれはばかだろうか……まあ親ばか決定だろうな。たぶん、明日の夜には親が迎えに来てバイバイするのがわかっている他人の子なのに……
自分にもよくわからないけど、今はもう華ちゃんが愛おしくて仕方がない。目の前にいる華ちゃんをおれなりに愛しはじめているんだろう。おれはあと二日が少しでも長くゆっくり過ぎて幸せな時間であってほしいと心から願っていた。
昼飯と二日分の食料を買い家へ帰った。華ちゃんは買い物帰りからまたグズっていたので、何よりも先にオムツを替えて、大急ぎでミルクを作って飲ませてあげた。
華ちゃんはゲップをさせる間もなく哺乳瓶をくわえたまま眠ってしまった。ゲップしなかったけど大丈夫かと心配になった。案の定……起きたとき、ミルクを戻した。ゲップの必要性を知った。
「そうだよなぁ~大人でも食ったあとすぐ横になって起き上がるとケフッって空気があがってくるもんな」
まだハイハイもできない赤ちゃんならゲップしなきゃ戻ってくるのは当たり前だ。華ちゃんの寝顔を見ながらそんなことを考えつつ昼飯を食った。飯がいつもより美味しく感じられた。おれには結婚の願望はまだないけど、華ちゃんをお世話していて父親にはなりたいと強く思った。おれの中にあった父性に感動した。
もう一時になっていた、あと半日華ちゃんと何をして過ごすか考えた。華ちゃんにはおれなりに親らしいことをしてやりたいと考えた。別れたあともおれのことを何かしらの形で思い出してほしいと思った。
いや違う、そもそも華ちゃんはまだもの心もついていないのだから……。思い出してほしいではなくておれとのことを知ってほしいの間違いだな。華ちゃんの記憶に残らなくても、彼女の親が綴るであろう記録なりアルバムなりにおれとの思い出が残ってほしいと思った。
たった三日間、知らない人に世話してもらった記憶なんて成長した華ちゃんにとっては恥ずかしいだけの思い出になるかもしれない。おれ一人の自己満足なのもわかっていた。それでも目の前にいる華ちゃんへの溢れる想いと気持ちを止められなかった。華ちゃんが起きるのを待って再び出掛けた。