俺の中で何かがぱちんとはじけた。たやすく、たやすく言うんじゃねえよ。生徒会とは、入学したてのかわいい主人公が一目で恋に落ちるようなエリート集団、なんてフィクションだ。大きな机にふんぞり返っている生徒会長、なんて幻想だ。
「松岡でいいんじゃない」
誰も俺を見ない教室。薄暗い廊下。木の陰の生徒会室。
「生徒会って何する人たち?」
生徒の代表で、憧れで。そんなキラキラした生徒会のイメージを上塗りしていく、いくつもの冷たい光景。それらはぐるぐると渦を巻いてどす黒い感情となり、壊れた蛇口から噴き出る水のように吐き出された。
「生徒会ってのはな、みんなが思っているような、漫画やドラマで見るような華やかな場所じゃねえんだ! 陰で行事支えたり地域と交流したり、みんなが気づかないところでって本当は報告してるけど誰も聞いちゃいないから分からないところで活動してる地味な地味な存在、それが生徒会だ!」
あれ、じゃあなんで俺、ここにいる? 全員がぽかんと口を開けたまま、俺を見ていた。正確には、野間以外。野間は視界にいないと思ったら、いつの間にかパソコンの前に座っていた。昨年の生徒総会のスライドを開いている。
「総会の最後、ボランティアのお知らせが、ある。今年も、スライド作るんすか?」
「お、さっそくやる気あるじゃないか」
優哉が柔らかく笑った。生徒会室の空気が少しずつ緩んでゆく。俺の肩の力もするすると抜けてゆく。
「出だしは思ったほど悪くないんじゃないか」
優哉が俺にそっと耳打ちする。今度は、怒鳴り散らしてしまった自分がどんどん恥ずかしくなってきた。きっと顔が真っ赤だ。俺はあんなにイライラしていたのに、生徒会室の雰囲気はいたって穏やか。ボランティア獲得の文言について、皆が意見を出し合っている。俺が次の一言を考えている間に、野間は皆の意見を集約して、カラフルな文字の『一緒におそうじしませんか?』と共に、イラストを添えたスライドを作った。ああ、こんなときなんて言うんだよ……。