監視社会の抜け穴

たとえ話をほんとの話に

「急用が出来た」

私は店を出た。もちろんバイクを隠す場所を探すためだ。すでに目星は付けていた。

浅草橋の駅から隅田川まで、高架橋に成っている。イレンダから高架橋まで、ほんのわずかだ。高架下は所々駐車場に成っている。昼間は使うが、夜は開いている所が多い。奥は暗い。その暗闇をじっと見つめていると、成田さんが背広の上にジャージを着て、急ぎバッグを背負い、猛スピードで走り去って行く動画が、まるでそこに居るかの様に頭の中に映し出された。これでアリバイは崩れた。

こういうのが探偵の醍醐味だな、嬉しくなって意気揚々と駅に向かった。さて、次はどうするかだ。それを考えた瞬間、一気にしぼんでしまった。まだこれでは、成田さんと対峙しても、たとえ話の続きにしか成らないじゃないか。そう証拠が無い。考えろ、考えろ、自分に言い聞かせたその時、頭の中に出てきた画像は、何故かパーチのママだった。

パーチのママは、ぶっきらぼうな話し方とは裏腹に、心の奥底に優しさが滲み出ている。だから常連が多い。店も長年続いている。こういう時、男は何歳に成っても、何故か優しい女に会いに行く。弱みもさらけ出す。女房じゃ無いところが不思議だ。

錦糸町で途中下車した。

「あら、あんたまた来たの。良いの、糖尿でしょ」

「ちょっと推理に行き詰まって。足が勝手にここに来ちゃった」

「あらそう、ありがと。ところで今日はどっちにするの。水割り、アールグレイ」

「水割り」

「良いの、奥さんにしかられるわよ」

「良いの、良いの。良いアイデアが浮かぶかもしれないし」

「まだ探偵みたいな事やってんの。ご苦労様。少しは稼いだ」

「まだ一円も。たぶん今回もまた無駄骨かな。なんせ依頼人が犯人だからな~。しかも俺がアリバイ証人だ」

「ハッハッハッ、相変わらず面白い事」

「ところでママ、浮気したからって、殺そうと思う」

「そうね、人に依るんじゃない。よっぽどプライドが高いとか、許せない相手と浮気したとか。そうそう、よっぽど愛してる人が浮気したら、殺しちゃおうと思うかもしれない」

「ふう~ん、なるほどね。亡くなった旦那さん、浮気した」