私が小学校5年生に上がる春に、神奈川県川崎市に我が家はマイホームを建て引っ越しました。

『サザエさん』のカツオは11歳が想定年齢のキャラクターなので、ちょうど彼と同じ年齢の頃です。

最寄り駅は小田急線の生田駅。梅ヶ丘駅から都心とは反対方向に11駅目の駅です。

東京の新宿から出ている小田急線は、多摩川を渡ると神奈川県川崎市に入ります。

この川崎に入って3つ目の駅が生田で、明治大学工学部・農学部の最寄り駅。

「農学部」の最寄り駅なのです! どんな場所か? わかって頂けると思います。

明治大学生田校舎の敷地は、かつての旧日本陸軍登戸研究所の跡地。

都心から離れた郊外の田舎に設けられた秘密の研究所でした。

中国経済の攪乱を狙って大量の偽札を印刷したり、アメリカに向けた風船爆弾を作っていた場所です。(明治大学構内には平和教育登戸研究所資料館があります。夏休みの自由研究等にお薦めです)

現在の生田は、農地とサラリーマンの住宅とが混在する町で、駅前には農協があり、今も農産物を直売する無人スタンドがいくつもあります。川崎市とは名ばかりで、都会のヘリに残された、武蔵野の面影を感じさせる緑の町なのです。

その生田駅から川崎市営バスで5分ほど乗ると長沢団地というバス停があります。そこから歩いて5分ほどのところの家で、私は5年生以降を過ごしました。

さて、小学校高学年の私が専らおつかいに行ったのは、この長沢団地バス停を降りたところにある商店街。

ようやくバスがすれ違える幅の道路の両側に、魚屋さん、八百屋さん、肉屋さん、パン屋さん、酒屋さん、豆腐屋さん、金物屋さん、電気屋さん、クリーニング屋さん……などが軒を連ねていました。

当時のおつかいは、買い物カゴを持って行きました。

我が家の買い物カゴは長細いカゴに、手提げ状になるよう2つの取っ手が付いたもので、レジ袋がなかった時代は、どこの家にもありました。

昭和アニメの『サザエさん』でも、度々買い物カゴが登場します。

例えば大根1本買うと、八百屋さんには新聞紙を切って作った包み紙の束がぶら下がっており、それに包んで買い物カゴに入れてくれました。

店先には天井から小銭が入ったザルもぶら下がっており、これがレジです。「はい、まいど! 100万円のお預かりで50万円のお返し」

と威勢のいい冗談を交えてザルに100円玉を放り込み、50円玉のおつりをくれました。

もちろんレシートなんて無いので、値段とおつりが合っているか? 確認し母に報告する必要があったのです。