【前回の記事を読む】今では考えられない…著者の「はじめてのおつかい」とは?……
第1章 おつかいとは?
1 真っ赤な手の豆腐すくい
卵も八百屋さんに買いに行きました。
パック入りではなく、八百屋さんの一角にそのまま積んであり、「10個ください」と言うと浅い茶封筒のような袋に数えながら詰めて、買い物カゴにそっと入れてくれる。買い物カゴはパックに入っていない卵をそっと運ぶのに必需品でした。
ただ、バス通りから一歩入ったところは未舗装のジャリ道。子どもなりに慎重に持って帰るのですが、躓かないように気を配ることで精いっぱいで、帰ると1つ2つ割れていることもありました。
当時は、買い物から帰ると母でも卵が割れていることがあったのです。そうした時は、すぐに晩ご飯の材料として使い、無駄にはならなかったのですが、自分が買ってきて割ってしまった時には、やはり、ちょっと切ない気持ちになりました。
母は幼い妹2人に手が掛かるため、私は度々おつかいに行きました。
途中、大人に出会うのはいいのです!「おつかい? えらいね~」と褒められるだけなのですが、カツオと同じ年頃となった私は、同年代の視線を意識し始め、おつかいを“面倒くさい”と思ったり、買い物カゴを“カッコ悪い”と思い始めていました。
現代のカッコいい折り畳み式のエコバッグがあれば、ポケットに詰め込んで手ぶらで行けたかも知れませんが、カラの買い物カゴをぶら下げて歩くのはどうも……冒頭のアニメの中でカツオがおつかいを渋るのは、ただ単純に“遊びたい”というだけではなく、同級生のかおりちゃんや早川さんに見られたらカッコ悪い……そんな気持ちも働いているように思うのです。
その点、食パンのおつかいは好きでした。
我が家の買い物カゴは食パンが入るような厚みが無く、手ぶらで行って手で持って帰って来る単品のおつかいとして頼まれたからです。
当時の大手製パンメーカーの食パンは、今のように切られて包装されておらず、焼かれた長方形の箱型の状態で近所の販売店に届けられていました。それを店先で、一斤分を「4枚切り」「6枚切り」などと注文に応じてその場で切って提供されていたのです。
私は目の前でスライス機の幅を調整して切る作業を見るのが楽しみでした「サンドイッチ用」に耳を落とすのもスライス機でしたが、食べ盛りの子どもを3人抱えた我が家では耳を落としてもらうことは一度も無く、マシン操作を余分に見られないという点では残念でした。