科学ドキュメンタリーの新たな貢献とは?

「誰も見たことがないドラマティックな映像」という企画の視点は科学ドキュメンタリー以外のテレビ番組にも当てはまる「成功の秘訣」かも知れない。とすれば科学ドキュメンタリー特有の「成功の秘訣」とは何かに絞って考えてみよう。

実はこうして出た結果を昨年のコロナで中止になる前の「大人の学校」で初めてお話しした。そこで取り上げた例は「ガラスのビルディング」と題した自作番組であった。その理由は「NHKライブラリー選集」で作家の柳田邦男氏が、過去に放送された膨大な数の番組から「ガラスのビルディング」を取り上げて次のように述べていたからである。

「この番組が作られた昭和43年当時は十勝沖地震で新しい強化ガラスの窓が割れるという報告がなされたものの社会的にはほとんど関心が集まっておりませんでした。この番組では新しいガラスなら大丈夫かどうかを『実験』により挑戦し警告した大変先見性のある番組だったからです」

その頃のテレビでは、様々な事故の予測や防止策など先見性を強調する番組は今に比べるとほとんどなかった。その主な理由は事故の予測や防止策を論理的にかつ、説得力を持って断言する科学番組もなかったし、万一クレームが来たら適切な反論が出来ず、対処法が無かったからだと思う。

そこで客観的な論理に基づいて説明する科学ドキュメンタリーの登場は社会に大きな貢献が可能なジャンルになった訳である。しかし問題があった。科学ドキュメンタリーがどんな正しい先見性を述べても難解で理解されにくく「ドラマティックなシーン」とはほど遠いものなら社会的な貢献には至らない。

そこで私たちは「実験」という演出技法の開発に力をそそいだ。例えば「ガラスのビルディング」の場合は次のようなシーンである。

*強化ガラスの強度の実験=人事部の入り口にあるドアの強化ガラスを野球のバットで強打するがびくともしない。

*ビルから割れた強化ガラスは本当に粉々になって安全か? ビルの屋上でたたき割られた強化ガラスの落ち方を真下から高速度カメラで撮影して安全度を確認する。

この実験はどこのガラス会社も非協力なのでNHK(私)が企画し、NHK放送技術研究所の屋上を借りて実施した。その結果は空気の圧力でも割れきれずに約40センチ四方のガラス片になって落下した。「強化ガラスは割れても落下中に粉々になってしまうので安全だと」いう宣伝とはかなり異なった結果であった。