テレビからは、この国の日課になってしまった殺人事件のニュースが流れていた。

〈今日昼過ぎ世田谷区の路上で、男性が若者に道を尋ねたところ口論となり、若者が持っていた携帯電話で男性の頭を殴り死亡させる事件がありました〉

純一はこのニュースをインターネットでも確認していた。概要はこうだ。

男性が若者に道を尋ねると「老いぼれが。これから国を背負って立つ俺に気安く声をかけるな。知りたかったら金をよこせ」と金銭を要求。男性は身の危険を感じ無言でその場を離れようとしたら、若者が「生意気だ!」と、手に持っていたスマートフォンの角で男性の頭を殴りつけて死なせた。犯人は、通りかかったゲートボールを楽しんだ老人八人に取り押さえられた。その際、犯人は老人たちの持っていたゲートボールクラブでめった打ちにされたという、あまりにも愚かしい事件だった。

毎日の出来事なので、真面目に悲しんでいたら神経がもたない。それより、毎日の殺人ニュースに自分が慣れてしまったのだと、純一は感じた。

もうひとつのニュースはオリンピック、パラリンピックでの、海外からの一般客受け入れ断念のニュースだ。現在も世界中で新型コロナウイルスが蔓延しているというのに、政府は開催実現に向かって安全な大会をアピールしている。

純一は〈そうなんだぁ。なにがなんでも開催したいんだな。でも直前で中止もあるよなぁ〉という薄い感慨しかなかった。それは、一年前にオリンピックが延期になったことで、自分たちの生活に支障をきたしたわけでもなく、中止になったところで、ものすごく悲しいというわけでもなく、オリンピックがなくても別に生活は変わらないと、コロナ騒動で思うようになったからだ。

今日は世の中の情勢や他人の不幸に同情している心の余裕はなかった。それは、老婆との奇妙な時間が繰り返し再生されていたからだ。

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