【前回の記事を読む】生まれて27年…毎日、点滴につながれてきた女性から「医師に届いた一通の手紙」【小児科医の実録】
きらめく子どもたち
会うたびの涙 悲しみから喜びへ
生後九か月、丸々と可愛くなったリセちゃんを、外来でX線撮影した際、腸が再び胸の中に脱出し始めていることがわかり、三度目の手術を行いました。
母は、ハラハラと流れ落ちる涙をぬぐおうともせず、「泣いてしまってごめんなさい、覚悟はしていたのに……」
今度は胸から横隔膜に向かう手術を行い、人工膜のシートを横隔膜の穴にピッタリとかぶせました。生後一歳二か月、なんとまた再発してしまいました。
四回目の手術となり、母はすすり泣きながら、「一生……心配……」
四回目の手術も胸から横隔膜に向かい行いました。前回の人工膜に加え今度はリセちゃんの成長を見込み、パラシュートのように余裕を持たせた人工膜をかぶせました。そして、再発はここで止まっています。
リセちゃんは小学生、中学生となり外来は終了しました。その後は時折リセちゃん親子と大学近くの本屋さんで遭遇しました。お辞儀をかわす程度でしたが、嬉しかったです。大きくなったけどコロンとした体型となり、生まれついての明るい色のくるくるヘアーがますますすごいことになっていました。
聞きたいことや話したいことはいっぱいあったけれど……時は過ぎていきました。そして今、小児外科外来に二十二歳二か月、すらりと背の高いお嬢さんとなったリセちゃんが母とともに外来に入ってきました。
母は宮本を見るなりまたもや目に涙を浮かべています。まるで条件反射のよう(?)。でも今日の涙は今までと違う涙でした。思わず宮本も過去がフラッシュバックしてしまいましたが、救いはリセちゃんです。明るく楽しい会話が続きました。
「え~~髪の毛はね、中学生くらいから背が伸びるに従って、少しずつ黒くまっすぐになってきたの!」
宮本の書いた本二冊を手渡そうとすると、母は、「二冊とももう買って読みました、泣きながら……」
すかさず横からリセちゃん、「私も欲しい! サインしてもらったこの二冊は私が持つから、前の本はお母さんが持ってて!」
手術創でいじめられたことはないかと心配すると、彼女は服をたくし上げ、お腹と背中の手術創を見せながら、「だいじょうぶ、こんなにきれいな線のキズになってるから、ビキニも着ちゃった!!」
今回のことは、小児外科医を三十年以上続けていることへの神様からのご褒美なのでしょうか? 宮本より後まで生きていくリセちゃん、定年間際の宮本には今後その輝きをどれくらい見ていくことができるのかわかりません。だけど、こんなしっかりした子に育てたのだもの、お母さん、何があっても本人が乗り越えていけますよ。お母さんも一緒に長生きしてください。節目節目で悲しいことは涙で流し去り、嬉しいことはいっぱいの涙でお祝いしながら。
(二〇一九年三月十六日)