【前回の記事を読む】質問「顕微鏡の発明は、科学の発展にどんな貢献をしたの?」

1 微生物の世界

⑵生命の細胞説

19世紀になって収差の少ない高倍率の顕微鏡がつくられて、1831年にイギリスのロバート・ブラウンが細胞の構造を調べ、細胞の中心に核があることを発見し、多くの研究者によって生物の細胞のはたらきが研究されるようになりました。

日本では、天保4年に医師の宇田川榕菴が[理学入門]という著書の中で初めてCellを細胞と訳し、それ以来、わが国では生物体を構成するものとして細胞の用語が使われるようになりました。1838年にドイツのシュライデンは、すべての植物は細胞から成り立っているという植物の細胞説を唱え、続いて、翌年、ドイツのシュワンがすべての動物も細胞からできていると動物の細胞説を唱えて、「生命体の基本は細胞である」という学説を提唱しました。

その後、細胞学者たちによって、細胞の概念が明確になり「すべての生物体は細胞から成り立ち、細胞は生命体の基本単位である」と定義されました。ところが、後に述べるように、ウイルスには細胞がないことが分かり、細胞は生命の基本単位とした定義がゆらぎはじめたのです。

⑶細胞の構造

ウイルスは、生きている細胞内でだけ活動し増殖でき、生細胞外では無生物状態なので、ウイルスと細胞は切り離せない関係にあるのです。このため、ウイルスの実体を知るには、まず細胞の構造と機能を理解することが必要なので、次に細胞についてのウイルスに関係する事項だけを説明します。

植物細胞には、図1のように細胞膜の外側には保護するためのセルローズや硬いクチクラの丈夫な細胞壁があります。

写真を拡大 [図1]細胞の構造

細胞壁が長く繊維状に連なったのが野菜などの繊維質で、植物体を支えており、さらにウイルスや細菌などが細胞に侵入するのを守っているのです。隣接細胞は、ペクチンという接着物質が細胞を結びつけていますが、細胞間には細胞壁を貫通した原形質連絡の通路があり、導管や篩管(しかん)で運ばれて水や同化物質をやりとりしています。

植物の細胞質内には、光合成をつかさどる葉緑体や、合成した澱粉粒と大きめの液胞があります。植物体の細胞には、根、茎、葉、花、導管、篩管、種子、繊維細胞などがあり、それぞれが機能に適した形態をして任務を分担して生命活動を行っています。

動物細胞の外側には、細胞壁はなく細胞膜だけですが、細胞膜の表面には、必要な物質を取り込む受容体があります。動物体は、様々な形や種類の異なる細胞で構成されており、それぞれの細胞が特定の任務をもつ組織や器官を形成して、個体の命を支えています。