「しかし、でっかい屋敷」
村人たちが部屋から去ると、重苦しかった雰囲気から解放されたゲンが、部屋の中を見渡す。
「村の人々が建ててくれたのだよ。私は普通の住まいで良いと言ったのだが。どうしてもと言うのでな。このようにこの屋敷に住まわせてもらっている……それはそうと、そなたたちは、この辺では見かけないような顔だ。旅人なのか」
「まあ、そういったところだ。俺たちは遠い東の国の出身で、ここへはただ立ち寄っただけだ。数日の間、休養したあとにまた旅を続ける」
「それは興味深いことだ」
ユラは微笑んで言う。
「この村へ来て疑問に思っていることなのだが、なぜこの村には徴兵がないのだ」
男は村人が言っていたことが気になってユラに尋ねる。するとユラはまた微笑む。
「それはだな。昔、私が国王に掛け合ったのだ。故に、この村には徴兵制度の手は及ばない」
「ほう、どのように掛け合ったのだ」
「それは秘密だ」
そう言ってユラは子供のように笑う。
「何で秘密なんだよ」
そんなユラの言葉にゲンが残念そうな顔をして言う。
「すまない。魔術師というのは秘密主義の者が多いのだ」
ユラは申し訳なさそうな顔をする。だが、その顔には笑いを堪えた雰囲気も見てとれる。