旅人
二人は、村に二日間滞在した。その間、村は祭りで盛り上がっていた。出し物は盛大に行われ、人々から歓声が上がったりなど村の祭りは喜びで溢れた。祭りの間、妖魔が再び村の辺りに出現することもなく、祭りは村人の笑顔とともに終わりを迎えた。祭りが終わると二人は、村を発つ支度を始めた。
「もう行ってしまうのか。もう少しいても良いのだぞ」
ユラは旅立つ支度をする二人に言う。その表情からは、少し寂しさを感じさせる。この二日間、ユラは毎日二人のところへ来ては、旅の話を聞かせてくれ、と言ってきた。ユラは幼い頃から、この村の外へ出ることなく育ってきた。そして、普通の子供とは違い、毎日を先代の魔術師とともに修行に励む生活。そんな幼き頃のユラにとって村の外から帰ってきた村人から聞く外の世界の話が一番の楽しみになったのだという。それは今も変わらず、時々村に訪れる者たちから外界の話を聞いているそうだ。
「この村には世話になった。だが、そろそろ行かなければならない」
男は馬の背に鞍を乗せながら言う。
「目的の場所があるのか」
「いや、それはない。流浪の身故、ただ世界を回るだけだ」
「そうか、それは大変なことなのか」
「やっていると慣れるものだ。それに世界は広い。珍しいものをたくさん目にすることで、自分の見る世界が広がる。だから旅の苦痛にも耐えられる」
「そうか、それは羨ましいものだな。私もいつかこの目で世界を見て回りたいものだ」
ユラは羨ましそうな顔をして言う。
「あなたにもいつかその日がくるよ」
ゲンがそう言うと、ユラは微笑んで言う。
「そうだな、そう願っているよ……何か助けが必要なときは私を頼ってくれても構わない。いつでも来ると良い。それと、そなたの名をまだ聞いていなかったな」
「……シュラだ」
男は少しの沈黙のあとに呟くように言う。
「シュラ……少し変わった名だな」
「これは異名だ。俺に名はない」
「どういう意味なのだ」
「シュラという名は敵が俺に恐れをなして付けた名だ、戦闘神阿修羅の如きシュラと。昔は無数の人命を奪った故」
そう言うと二人は馬に乗り、村をあとにした。ゆっくりと村から姿を消していく二人の後ろ姿を、ユラは何も言えず、ただ見送ることしかできなかった。