そこには畳間があった。二十畳分の部屋には、何一つ家具と言える物はなく、部屋の中央に二人分の食事が膳に乗って置かれているだけだ。その様子は、閑散としていて少し寂しさを感じる。部屋の西側には外へと通じる襖の戸。縁側には庭が広がっている。だが、それは無数の砂利を何かで引っ張っただけのようなこれもまた慎ましげのある庭だ。
「今日はもう遅い。今夜はここで泊まっていくと良い。世話はここにいる二人の女中がいたす故、何か困ったことがあればその二人に申しつけると良い」
そう言って、部屋を去ろうとした女だったが、ふと思い出したように二人の前で膝を折ると深々と頭を垂れる。突然の女の行動に、そこにいた二人の女中は少し戸惑っていた様子だが、女が下がるように言うと、慌てた様子で部屋を出て行った。女は頭を上げると言う。
「普段、この村は結界で守られ、妖魔には見えないようになっているのだが。今日はこの通り、村中が大騒ぎでな。故に、このような事態を招いてしまったのは私の責任だ。私が細心の注意を払っておけば、このような事態に陥ることなどなかっただろう。魔術師として不甲斐ない」
女は情けない、というような顔をして二人とともに屋敷に上がっていた村長をはじめとする村人たちに深々と頭を下げる。だが、村人はそんなことは微塵にも思っていないようだ。
「とんでもないユラ様。あなた様のお陰で我々村人は、良い思いをさせてもらっているのです。国からの徴兵を免れ、このような苦しい時代の中でも何も不自由なく幸せな暮らしを送らせてもらっているのです。あなた様がいなければ、村はおろか、私たちは今のような生活を送ることはできなかったでしょう」
そう言って今度は村長の男がユラという女に深々と頭を下げる。
「何度も言っているだろう。私はあなたたちとは何も変わらないただの女だ。そのようにされては困ってしまう」
ユラは困った顔をする。その表情からは、気恥ずかしさが感じられた。その後、ユラと村人の間で二言ほど会話が交わされると、村人たちは帰っていった。