君と抱く
今度こそ、仕切り直して散歩をしよう。色々おやじさんに昨日からの礼を言い外へ出た。
街を歩きながら……華ちゃんの親のことをおれなりに考えてみた。もちろん心当たりなんて全然なかった。おれはこのかた、女と付き合っても子供ができるようなヘマはしたことがない。だから、絶対に隠し子だっているはずがないんだ。
そうなると、おれがよく知る人物の子だろうが、それもやっぱり思い当たる人物はいない。誰であろうと、きっとおやじさんが言うようにどうにもならない事情があり、泣く泣くおれなんかの所へ置いていかざるを得なかったに違いない。
幸い、おれにはおやじさんという心強い味方がいる。諦めて三日間はしっかりおれが面倒を見るしかないのだろう。可愛い華ちゃんのため、おれの休暇が終わる三日目の夜にでも迎えに来ることを祈り信じるしかないということなんだろうと思った。頑張れおれ。頑張れ華ちゃん。
そうと決まれば、この三日間華ちゃんとどう過ごそうかな。華ちゃんが喜ぶことをしたいけどおれも楽しみたい。おれは華ちゃんがいなかったら、のんびり釣り三昧のつもりだったが、華ちゃんを釣り場へ連れて行く訳にはいかないので、色々考えたあげく少しベタか!? とも思ったけど、動物園へ連れて行ってみることにした。
そうと決まれば早い、おやじさんに電話することにした。二人で行くよりだんぜん四人のほうがよい、心強いし楽しいはずだ。華ちゃんのためにもそれが一番安心安全だろう。
「おれだけどさ、これからみんなで動物園へ行かねえか?」
「そうだな。唯も暇みたいだから一緒に行くぞ。三十分後に駅で待ってるからな。華ちゃんセットは多めに持って来いよ」
おやじさんは一方的に電話を切った。家に戻り、華ちゃんセットとお湯を入れたポットをリュックに入れ、華ちゃんと駅へ向かった。
途中、近所の顔見知りのおばさんに会った。おれたちを見るなり、「まあ、最近の男の人は子育てをするとは聞いていたけど……独身の男の子でもベビーシッターをするの!?」少し驚き呆れたような顔でおれにそう言った。
「ベビーシッターではないですよ、お金はもらいませんから。親戚の子を預かったんです」
「まあ、それは偉いわ。何か困ったらおばさんにも相談してよいわよ。気をつけてお世話しなさいね」
いつもの優しい顔で笑って手を振ってくれた。
「はい、ありがとうございます。おやじさんにご指導頂いてますが頑張ります」
そう答え、華ちゃんの手をおれが握り、ふりふりと手をふらせて別れた。