ヘルパーが助けに来た。彼女はさほど驚いた様子を見せなかった。実はよくあることで美保子は時々人を泥棒扱いする。ここの施設の職員も対象だし、会った人間誰に対しても見境なしに、だ。
ヘルパーはなだめるように「ほら美保子さん、甥御さんじゃないの、甥御さんが泥棒なんかするわけがないでしょう、忘れたの?」と聞いた。落ち着いたベテランのヘルパーの女性に彼は助けられた。ヘルパーは彼を慰める積りなのか美保子さんは食欲もあるし元気なので百まで生きるかも知れませんと言った。
やれやれと彼は心の中で吐息をついた。これでは話を聞くどころではない。今日は特別に虫の居所が悪かったのか、それともいつもこうで望みなしなのか? どうやら退散するしかなさそうだ。
帰りがけにヘルパーが話しかけて来た。彼女の親戚や知り合いが訪ねて来たのはここに入居してからほとんど初めてだが、つい先ほど老婦人の孫と名乗る女性も訪ねて来た。お互いに申し合わせて来たのではないのかと尋ねた。
忠司は首を振り、言った。
「僕らは親戚付き合いを余りしていないもので――どんな子でしたか?」
「若い方でしたよ」
「名前を言いましたか?」
ヘルパーは訪問者名簿を見ていった。「片岡真世さんっておっしゃったかしら。一日に二度も来客があって美保子さんは興奮したんだと思います。それであんな騒ぎになったんでしょうかね。最近は騒がなくなっていたんですけど」
「ああ、真世ですか」彼はうなずいてさりげなく尋ねた。
「今から追っかけたら間に合いますかね? もう何年も会ってなかったんですよ。最後に会ったのがいつか覚えていないくらいだからお互いに道で会っても分からないだろう」
ヘルパーの女性は片岡真世は一時間ほど前に来たが三十分ほどして彼と入れ違いに帰ったと言った。