身体が動かない……。

猛った男が、眼を血走らせ、覆い被さってくる。

猛獣に襲われるような恐怖。

朦朧とした意識とろれつの回らない舌で、必死に()めてくれるよう懇願した。

しかし男は止めない。

男も、有り余る性欲に理性を支配され、欲望のままに恭子に襲いかかる。

下着が引き千切られる。

男がズボンを脱ぎにかかる。

恭子はその隙に逃げようとした。

男が髪を掴み、引き()り戻す。

そして、頬に拳を。

脳が揺らぎ、意識が遠のく。

動かぬ恭子に男は近づき、いきり立った物が、女陰(ほと)に触れる。

途端に男は叫び声を上げ、電撃に撃たれたかのように仰け反った。

男の性器からは、大量の精液が迸り、恭子の全身に降り注いだ。

男の声が止み、硬直から解かれた男は、背後へと倒れ込んだ。

静かになった部屋で、恭子はゆっくりとベッドから起き上がった。

視界には、動かない男の姿が。

その目は大きく開かれ――そこには瞳が無かった。

「ハッ!」

恭子は布団から飛び起きた。

全身が汗で濡れている。悪夢にうなされていたようだ。

室内はまだ暗い。天井近くにある明かり取りの窓からは、まだ日の光が漏れていなかった。

日の出前の蒼い壁を恭子は見つめていた。次第に現実の世界にいる事を、恭子は把握し始めていた。興奮がゆっくりと遠ざかっていく。

あの時の夢を見た。

青年を、ホテルで殺してしまった時の夢だ。

あの時自分は、死体と何時間一緒に居たのだろう。

青年に、罪は無かった。未成年の自分を泥酔させ、酩酊(めいてい)状態の私を無理矢理犯そうとした罪はあるが、それは死に値する罪か? 彼はまだ未遂だった。

敵や罪人以外で人を殺したのは、彼が最初で最後だ。

これまでは敵を倒さねば自分が死ぬという状況下で生活していたため、人を殺す事に麻痺していたが、日本に戻ってきて思い出したのか。

あの事件で、自分は思い知った。

生殖行為が出来ない。つまり、異性のパートナーと共に過ごす事は不可能。よって、私には恋愛も許されない。

これまで虚しさは戦場で解消していた。

だがここは戦場ではない。

自分は、これまで以上に己を殺して生きていかなければならない。

【前回の記事を読む】【小説】「仕方ねぇな。お前を俺の相棒として認めてやる」