表に駐車してある二トントラックの荷台に段ボールを押し込み、助手席に足を運んだ。ふとドアに手をかけるとドアが開いた。普段は鍵を閉めているはずなのだが、たまたま忘れたのだろうか。ラッキーとばかりに助手席に乗り込み煙草を一服した。勝手に休憩などとれば叱られるのはわかっているが、見つからなければ大丈夫。博樹のいつもの考え方だ。

「ちょっと一本だけ勘弁してくださいね」

そう言いながら「ふう」と煙草に火を点け、煙を吐き出したその先、ダッシュボードの上に作業指示書というものが置いてあった。作業指示書というのは、どこのお客様のどんな荷物をどこへ運ぶのか、詳細が書かれた書類のことだ。博樹は思わず手に取った。引っ越し先の住所が書いてある。

「愛知県名古屋市緑区……」

これはいいものを見つけたとばかりに、博樹は何度も復唱し、覚えようとした。

「おいバイト! 何サボっているんだ! きさまはもういい!!」

普段、リーダーが車に降りてくることはめったにないのだが、この日は勝手が違った。事実上のクビである。リーダーの権限で作業者を送り返すこともできるのだ。見つからなければいい、という博樹の安易な姿勢が招いた当然といえば当然の報いである。

早い時間からアパートに帰ることになった博樹だが、反省するでもなく冷蔵庫のビールを取り出し、プルタブを開けた。キッチンには彼岸花が十数本ほど残っている。水を差しているのがよかったのか、まだ花も葉も生き生きとしている。博樹はビールを飲みながら暗記した住所を紙に書き留めた。

「確かめなきゃ、一昨日の事実を……。いや、何が知りたいのだろう俺は!? とにかく会わなきゃ」

沙羅(さら)多枝子(たえこ)。彼女の名前を小さくつぶやき、夜明けを待った。

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