高山が続ける。
「ああ、林か。あいつは頭が硬いからな」
裕美は、(あの先生と同じ名前、そりゃあ、頭が固そうだわ。それにしても、私がその先生で冗談言ったのが悪かったのかしら)と思いつつ、佑介に向かって聞いた。
「それで、大丈夫なの」
高山が横から答えた。
「一応、校医には診てもらって、『頭には異常はないようだから、大丈夫だろう、でも念のため、帰って休むように』とのことでしたので、お呼びしたわけで。お忙しいところ、申しわけありません」
裕美も恐縮しながら、
「いえいえ、先生には大変ご面倒をおかけして、本当に申しわけございません。でも頭ぶつけたんなら、一部、記憶喪失なんてこと、ありませんかね。できれば、ゲームの記憶だけなくしてくれるとありがたいのですが」
高山も、苦笑いしながら答えた。
「そんなうまい具合には。そんなことできるなら、私もカミさんのこと忘れたいですよ」
それを聞いていた佑介は、裕美の顔をまじまじと見ながら、「あ、そういえば、おばさん誰?」と言った。裕美は、佑介の頭を「ぺしっ」とはたきながら、「高山先生にごあいさつして」と言った。
(本当に、こういうところは、確かにパパの血ね)
佑介は、「あ、先生、でしたっけ、ごめんなさい、ありがとうございます」
裕美は、「やめなさいってば」と佑介を叱り、高山に、「それで、相手のお子さんは大丈夫だったんでしょうか」と聞いた。高山は、「それが、ぶつかった林くんは、頭が硬いので、全く何ともないようで」
裕美は、子供の体にあの先生の頭が乗っている姿を想像してしまった上、「頭がかたい」というところがツボにはまり、おかしくてたまらないが、こみ上げる笑いを必死でこらえながら、やっとのことで、「それはよかったですわ」と答えた。