弐
英介は、会社の応接室で記者から取材を受けている。カメラマンもついてきているが、顔は写さないように言われ、会社の中を撮っている。
英介は、はっと気がつき、カメラマンに「あ、会長の写真は写らないようにお願いしますよ。会長も顔をさらすのは好きじゃないということだから。あまり時間がないから、早めにお願いしますよ」
記者は、「社長は、いつからこの会社に入られたんですか」
「僕が大学の時、勉強もしないで悪い連中と遊んでばかりいたんで、留学することになったんだよ、アメリカに。そこで、いろんな経験をして、日本に戻ってから、自分で仕事を始めたんだけど、父親に会社を継げって言われて、しょうがなく入ったのが、三十歳の時だったかな」
「大学はどちらで。学生時代はどんな感じでした」
「大学は慶城大。周りのやつらもみんなどっかの有名会社だとか、有名芸能人だとかの二代目、三代目とかで、遊びまわってたね、夜中まで。このままじゃ駄目になると思って、アメリカに留学したんだよ」
「ご家族は。お子さんも同じ学校ですか」
「息子と、娘がいるけど、学校は、同じとこには行ってない。僕の昔の仲間の連中みたいになってほしくはなかったからね」
「奥様とはどこで、どうやってお知り合いになられて」
「アメリカで知り合ったんだ。同じような境遇で、やっぱり、大学で遊んでばかりいて、それじゃ駄目だって、留学したんだよ。それで、息が合ったというか」
「会長は、お父様ですか。社長はどうやってお育ちになられましたか」
「会長は父だけど。僕は放任だったね」
「写真をお願いできませんか」
「それは駄目だね」
「どうしてですか。そういえば、会長も若い時のお写真しかありませんね。最近はどうされているんですか」
「会長はたまにしか出てこない。もう顔は出さないと思うよ。とにかく、うちは写真を出さない主義なんで、勘弁して下さい」