第二幕 くれない艦隊、二度目の出現
やはりゆうれい船艦隊は無敵だった?
あれから幾月日か経ったことだろう。元駆逐艦さくら・長内艦長は、日本に帰還していた。ここは、軍港、広島県呉港。岸壁の目の前に、ひときわ大きな戦艦が沖合に錨泊している。戦艦むさしだ。
「ぽっ、ぽっ、ぽっ、……」
何やら厳かな雰囲気の中、一隻のタグボートが戦艦むさしに近づく。
「新しく着任した長内艦長に全員敬礼!」
そのタグボートから、新任の艦長がタラップをゆっくり登ってくる。そして、おもむろに艦橋へ向かった。長内は、南太平洋での激戦の後、しばらく休養をとり、戦艦むさしの艦長に就任していた。今度も大役だ。その沖合の戦艦むさしには、いつ何どき出撃命令が出てもいいようにと、次々と補給物資がはしけによって運ばれて、積み込まれている。
戦艦ともなると艦橋内は、いろいろな機器がびっしりと詰められたように並んでいる。操舵装置、測深機、測距機(いわゆるレーダー)、主機関遠隔装置(回転計、速度計、連絡装置)、伝声管、など艦橋の片隅には、無線装置があり、送信機、受信機、電鍵、国際標準時計、予備蓄電器などと必要な装置がずらりと並んでいて、ふと気がつくと急に連絡が入り、受信機でモールス信号が鳴っている。
ある夏の暑い日の未明、大日本帝国海軍軍令部から指令が届く。
「トツート(了解)」
あわてて真田電信員が返信する。
「トツートトツー……」
「旗艦は、レイテ沖へ出航せよ!」
という指示であった。真田電信員が長内艦長に大声で報告する。
『「旗艦は、ただちにレイテ沖に出航せよ」と言う伝令です。』
「うむ」
と長内艦長はうなずく。その直後、「機関始動!」と戦艦むさしの長内・新艦長が指示を出すと、むさしの二つの主機関にコンプレッサーから圧縮空気がジューと送り込まれ、ピストンが上下し始めた。タイミングをみて機関士たちが燃料ポンプの弁を開き、重油燃料を送ると低重音のうなるような音を上げ、機関が始動する。
今では見られないが、例えて言えば、一昔前の旧国鉄ディーゼル機関車DD15のエンジン音がうなる音と同じだ。
「機関始動、サー」
と中田機関長が長内艦長にアンサーバック(復唱)する。それから戦艦むさしの主機関は、ギア中立のままピストンを上下させ、クランク軸を回しながら動きだす。それにつれてプロペラ軸も回りだす。戦艦むさしのスクリューは可変ピッチプロペラのため、クランク軸が回転していても、ピッチ角を変えなければ、推進力はでないので戦艦が前へ進まない仕組みだ。