「いただきます」

四人で向かい合って晩ごはんを食べていると、

“あのマグカップ、まだ使っていることばれてしまったな”

と聞こえた。父の方を見るが黙々とカレーを食べており、言葉を発した雰囲気はない。しかし、カレーの熱さでか目を細めている父の顔は、どこか恥ずかしそうにほほえんでいるようにも見えた。

空耳かな? と不思議に思っていると、

“あのTシャツを着せて今度映画にでも誘おうかな”

と姉の方からも聞こえてくる。

ふとその時、この前聴いたラジオのことを思い出した。ぼくはまさかな……と思いながらも気づかれないように三人の顔を順番にゆっくりと見つめた。

その時、

“このカレーはずっと変わらない味。大丈夫、あなたはかけがえのない、これまでもこれからもずっと続いていく家族だよ”

と胸の中で聞こえたのだった。

この食卓だけ時間の流れが止まったかのように、ぼくの鼓動もゆっくり感じられた。思わず涙が出そうになり、思った。

“ぼくの居場所はここなんだなぁ”

カレーのスパイスのせいもあるのか、体中がぬくもりに包まれ心地よかった。

と同時にこの時ぼくの生きる世界に久しぶりの、風が吹いた。

【前回の記事を読む】【小説】「感染症で閉鎖された世の中が僕を救った」に共感する、引きこもりの少年。