2章 責任構造物としての防災施設の使命
既存の河川の存在理由を問うことの重要性
河川の氾濫を誘発する基本的要因は天井川にある
降雨による水は、画一的作用により高き所より低きに移動し海へ流れ込む。この循環を人工的に制御している構造体が河川堤防である。水の流れが始まる「起点」と流末を示す「終点(海抜)」、この間の高低差を水自体の性質で流れ下っているのが河川である。
起点と終点を表す高低差を河底に設定し、最高水位を決定すると、それより高い位置は安全地帯となる。高低差より低い土地は当然水溜まりとなり、そのままでは人は住めない。流水高さより高い土地では浸水の被害は起こらない。水の性質による科学は、非常に単純で明快である。
既存河川で頻発している浸水被害は、高低差を示す河底および流水高と、生活地盤の高さとが原理に合っていない結果である。理想的な河川形態は、標高差を十分取り、流水高さに余裕を持たせるために河川幅を広く取り、流水高の上に生活地盤高をしっかりと確保することである。
既存の河川は、終点となる海抜からの高低差を無視し、既存の生活地盤の上に流水高を持ってくる「天井川」となっている。その天井を支えるのが土を盛り上げた昔ながらの土堤である。
降雨を地表面が受け小さい水路(静脈)で集めて本流(動脈)に流し込むと、本流を流れる水量は段々と容積を増し、水位が高くなって河川内の水圧は上昇していく。その結果、本流(動脈)の水が支流(静脈)の方に逆流していく「バックウォーター現象」が起こる。
本流が上流で集積した水量を下流の支流に押し戻すことになる。本流に集積できない降雨の残量に本流から逆流水が入ってきて積算される。これは全て科学のメカニズムである。
浸水被害のあった鬼怒川も真備町も嵐山も福知山も標高は10メートル~30メートル以上の高い地形の場所である。標高の高い場所で浸水する理由は、河川の河床が高く、天井川の構造となっていることの証明である。
河川の氾濫を誘発する基本的要因は天井川にある。上流の山林伐採や都市化による舗装面の広がりで、浸透水量が減少し一気に水嵩が増す。その対策に土堤を盛り上げて堤防を嵩上げしてきたが、天井川の嵩上げは破堤の危険度を増幅し、自然との共生に逆行しているのである。