第一章 的割り(MATOWARI)忍び込み犯の落ちは居直り強盗
張込み困難な現場からの相談
この地域は、商業、工業を中心に人が集合する比較的大きな街であるが、交通量の多い街道を外れるとのどかな農村地帯となる。夏が終わり、初秋の感がする夕暮れ時、駅から二キロほど離れた農家の納屋に二人のベテラン刑事がわらに触れた腕をさすりながら張込みをしていた。
「前ちゃん。蚊は虫除けスプレーで避けたが、このわら小屋の臭いとかゆみはどうにもならないな」
「三田班長。この納屋が対象者の出入りを確認するのには最高の場所だから我慢しましょうよ」
三田班長と前川部長刑事がひそひそ話を始めた。
「そうだな。本来の出入りを確認する作業には最高だな」
「これからの問題は、対象者の執拗な警戒や点検行為です。自宅前の路上まで掃き掃除をしている素振りで周囲を警戒していますよ」
「対象者はこれを繰り返し、一度は出掛け途中で戻るから、尾行も困難になるな。前ちゃん何とかする方法はないかな。監視カメラは使えないか」
二人で張込みの手法を考えていたが、その時、前川が三田に尋ねた。
「これからの季節は日々、日が短くなり現場が真っ暗になるから人の目では見えにくいですよね」今度は三田が問題点を提起した。
「そうだな。真っ暗な場所はカメラには映らないよな。対象が出入りする場所付近にある街灯は、蛍光灯一本だがあの灯りが出入口まで届くかな」
「確かにこの現場は難しいですよね。中條警視に相談してみますか」
「現場を知り尽くしているから何とかしてくれるかもしれないよな」
この日も無理な追尾態勢が取れないことから成果は得られなかったが、捜査対象者の手口と見られる事件は発生していた。盗犯刑事のお家芸とするまさに的割り捜査、いわゆるMATOWARIの渦中にあった。翌日、馴染みの捜査第三課に所属する三田一郎班長と前川俊博主任刑事が、直接訪ねてきた。彼らは義理堅く電話では失礼になると直接、中條のところへ出向いたのだ。
「困難を強いられている対象者の行動把握中です」
「捜査支援資器材による支援をお願いしたいのですが、相談に乗ってください」
早速、私をはじめ徳田ら映像捜査官スタッフを交え、捜査状況の報告、難敵である窃盗常習犯の動静監視の現状を説明し、監視システム設置の必要性を訴えた。
職人刑事の二人が熱く語る必ず捕まえたい執念のある説明は、理にかなったもので分かりやすく、映像捜査官の心をつかみ、何とかしてやろうとの気概を震い立たせていた。