好奇心と探求心

中條自身、これらの才能があったとは言えなかったが、自然児として育った年少時代の体験から獲物を捕らえる知識、技能が少なからず備わったのかもしれない。こどもの頃から類まれな才能があったというより、極めて周辺の自然環境が良く、近所の少年がいた。

遊び友達に二、三年ほど年長の男の子が数名いたが、一人素晴らしい機転の利く器用な年長リーダー的存在であるこの少年は、とにかく遊び上手でこどもたちの遊び道具である竹馬、ゴム輪を発射する竹ピストル、竹とんぼ、水鉄砲、チャンバラ道具に足りず、季節になると山から下りてくる野鳥を捕獲する罠を作ったりして仕掛けていた。

今に思えば、小刀ひとつあると竹を利用した竹細工の延長で、林に入っては藤の弦などを見つけて、これを応用し、自らの創造力で何でも作っていた。

中條少年は、この年長少年と気が合い、可愛がられ、いつも一緒に行動し、いろいろな細工作業の手ほどきを受けては、見様見真似で作ってみた。遊び心満点で毎日が楽しくこのお兄ちゃんの後を追いかけては多くのことを学んで吸収していた。

「秀樹。小刀の扱い方がうまくなってきたな。今度は、野鳥を生け捕りする簡単な罠を作ってみるかい」

「お兄ちゃん。俺にもできるかな」

「俺と一緒に同じ物を真似て作ってみろ」

いつものように誘われ、その好奇心からこれもへたな細工を繰り返していたが、どうにか形にはなった。六〇年ほどの昔で鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律が緩く、今のような電子的遊戯機器のあふれる時代ではないから、当時のこどもたちはある程度知恵が回り出すと自ら遊び道具を考え出し、にぎやかに楽しく遊んでいたが、全てはこどもたちだけの遊びであった。

初めての罠は、竹、藤弦、網(ネット)を利用した物で、竹を弓状にして藤弦を両端に固定し、弦のほぼ中央部に竹を半円形にして網を張ったものを取り付け、弦のひねりを利用し、餌をつまんだ時にバタンと網が落ちるといった簡単な物であったが、やはり奥が深かった。

二人の間では、通称「バッタ」と名付けていたが、最初は隙間や曲がりが生じてしまい決してうまくはなかったが、年長少年はさすがであった。

「竹や藤の弦は、ひねりがあるからこれをできるだけ避けるのがコツだよ。どうしても駄目なところは火であぶりまっすぐな形を作っていけばいいよ」