前述したように、動機づけ面接の対話スタイルは、ミラー氏とロルニック氏の依存症からの回復を援助する過程で見出されました。

援助の対象であるアルコールや薬物依存等の問題を抱える人は、心理的に健康とは言えません。また、「やる気がない人や、やりたいことがよくわからない人」でも大丈夫です。なぜなら動機づけ面接では、その人はやる気がないのではなく、「動機があるけれど引き出されていない人」と捉えます。中核技法である「聞き返し」を使い、正確な共感を行うことで、変化への動機づけを本人の中から引き出していきます。そもそも出社したり、面接に応じていたりする時点で動機はゼロではないのです。

一方、動機づけ面接での対話がかえってマイナスになる場合もあります。それは十分な動機があり、あとはチャレンジする方法を考えるだけという場合です。そういう人には動機を引き出す必要はなく、具体的な計画支援だけでよいのでビジネスコーチングによって成果が期待できるでしょう。

令和2年度「職業能力開発調査1」では、自分自身の職業生活設計について、「考えていきたい」と回答した正社員は29.3%です。「どちらかと言えばと考えていきたい」と回答した正社員37.5%を加えても66.8%です。残りの人たちはアンコーチャブルとなります。

また、厚生労働省の令和2年「労働安全衛生調査2」によれば、正規労働者の59.1%が「強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答しています。つまりビジネスコーチングの対象者は、自分自身の職業生活設計について、「考えていきたい」、「どちらかと言えばと考えていきたい」と回答している約7割に含まれ、心の健康を保っている約4割に含まれる公約数ということになります。最大に見積もって4割と言えそうです。

2020年から世界中に新型コロナウイルスの感染が拡大し、多くの人が働き方や生活様式を変えることを余儀なくされました。そして多くの人がオンラインでの仕事や買い物等を経験してみると、思いがけず利便性を実感したのです。その結果、新型コロナウイルスが収束しても、在宅でのテレワークや、Uber Eats に代表されるギグワーカーのような働き方が、さらに広がることが予想されます。

生活様式や消費行動が変化すれば、労働市場で求められる人材も変化します。心の健康度を問わない動機づけ面接は、変化への葛藤を乗り越え成長しようとする個人に寄与できる可能性を秘めています。