ピアノソナタ第4番K. 282/189g

モーツァルトはピアノソナタを多く残してくれた。生涯にわたって作曲され、その数は単一楽章の曲も含め20作品ほどになる。ピアノ変奏曲や小品までも含めればピアノの曲は60曲余りになる。まさに交響曲や弦楽四重奏曲・弦楽五重奏曲と同じ規模になるのである。

ピアノの名手のモーツァルトにとっては、まさにピアノ協奏曲やピアノソナタは中核をなす作品群なのである。モーツァルトのピアノ曲が特に好きという人も多い。

さて、この曲は、1775年初頭ミュンヘンで完成された。ピアノソナタは18歳の青年モーツァルトの新しい挑戦であった。3楽章からなり、演奏時間は12分程である。

第1楽章アダージョ。私がこの曲の中でも最も好きな楽章である。モーツァルトのピアノソナタの中では唯一、アダージョで第1楽章が始まっている。静かでゆったりとした音楽で始まる。次いで少々テンポが速まり第一主題が奏でられる。

冬の日、静かに夜が明けて、ゆっくりと朝がやってくるような雰囲気である。その後、次第に曲調が明るくなっていくが、一転して悲しみの陰りが押し寄せて来る。しかし、これは長くは続かず、明るい第二主題に変わる。気品があって、心を落ち着かせてくれる音楽である。

第2楽章はメヌエット。モーツァルトのピアノソナタにメヌエットの楽章が入っているのは珍しく、この曲とピアノソナタ第11番K. 331のみである。軽快な音楽で開始される。展開部ではメヌエットらしい音楽が奏でられる。舞踏会へ誘われるような雰囲気で楽しい。ピアニッシモが素晴らしく、トリルが多用されている。

第3楽章アレグロ。力強い音楽で始まる。主題にも力がこもっている。この主題が繰り返し演奏される。2分30秒ほどの短い音楽の中に青年モーツァルトの覇気を感じる曲である。

私の愛聴盤はヘブラーの録音である(CD:フィリップス、SHM-1006 、1968年録音)。40年以上も繰り返し聴いているが、聴くたびに新たな感動を覚える。特に、ピアニッシモが素晴らしい。