コラム 脳の構造

人の脳の構造の概要を説明するにあたり、まず脊椎動物の脳が発生過程でどのように形成されるか、そして脳がどのように進化してきたかを説明するのが分かりやすいと思う。

脊椎動物個体の発生過程において、脳と脊髄は神経管と呼ばれる管状の構造から形成される。神経管にいくつかの膨らみができ、それが前方から終脳、間脳、中脳、後脳、髄脳となり、その尾部側で脊髄が形成される(図表2)。

[図表2]中枢神経系の個体発生。神経管に膨らみが生じ、それらが大きくなって中枢神経系が形成される。各膨大部が終脳・間脳・中脳・後脳・髄脳になる。視床となる間脳領域からは側方に突起が伸張し、それが眼球まで伸びていって、先端が網膜となる(参考文献2)。

そして、終脳では大脳皮質と大脳基底核、間脳では視床と視床下部、中脳では被蓋と視蓋(上丘)、後脳では小脳と橋が形成され、髄脳は延髄になる(図表3)。

[図表3] 脳の進化。魚類・両生類・爬虫類・鳥類・人の脳の模
式図。各々で大脳・間脳・中脳・小脳・延髄を示している。人以
外では、それらがほぼ一直性状に並ぶが、人では間脳と中脳の外
側を、発達した大脳皮質が覆っている。飛翔する鳥類では小脳が
よく発達している。また鳥類以下では、中脳が視覚情報処理で大
きな役割を担っている(参考文献3)。

魚類、両生類、爬虫類、鳥類では、上述した構造が頭部側から尾部へ向かってほぼ一直線状に並んでいる。それに対して、人の脳では大脳皮質の発達が著しく、それが間脳や中脳を覆い隠すような形になっている(図表4)。

[図表4]人の脳の外側面(左)、人の脳の内側面(右)(参考文献4)

そして、大脳皮質の内側に、大脳基底核、視床、視床下部、上丘などが配置される形になっている。各部位の主な機能については、延髄は呼吸の制御などの生命の維持機能を担うとともに、頭部や顔の筋肉を制御する。

小脳や橋は運動の制御などを担い、視蓋(上丘)は視覚刺激に対する応答の制御などにかかわるが、鳥類以下の脊椎動物では視覚の上位中枢である。視床は視覚や聴覚情報などを感覚器から大脳皮質に送る際の中継部位としてはたらき、視床下部は自律神経系制御の中枢となっている。

大脳基底核は大脳皮質、視床、小脳などと連絡して、運動制御や情動などに関与する。大脳皮質は前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉といった表面に出ている部分と、内側に入り込んでいる帯状皮質などに分けられる。

後頭葉には視覚関連部位があり、側頭葉には形態視にかかわる視覚関連領野の他に聴覚中枢もある。頭頂葉後部には体からの触覚刺激を処理する体性感覚野があり、その前方には運動指令を出す運動野がある。

そして、その前方にはさまざまな感覚入力を統合しての意思決定などの高次機能に関与する前頭葉がある。そして、内側に回り込んだ帯状皮質は感情などにかかわり、記憶に重要な海馬や扁桃体へとつながる。

 

参考文献2:Neuroscience, 5th ed. Purves D 他5名. 2012, Sinauer.

参考文献3:脳と心の正体:神経生物学者の視点から、平野丈夫著、2001、東京化学同人

参考文献4:何のための脳? AI時代の行動選択と神経科学、平野丈夫著、2019、京都大学学術出版会