第一章 的割り(MATOWARI)忍び込み犯の落ちは居直り強盗

犯罪の特癖と的割捜査

手口捜査班においては、現場観察の初歩的な見方、手順、手口分析、特癖からの容疑者の抽出、資料作成、さらには現場捜査への活用要領等の教示を受けた。

人の癖は、「なくて七癖あって四八癖」とことわざで言われていることに始まる。泥棒がその手口で成功すると同じ手段を繰り返す習性が特癖となる。侵入口のガラス破りの手口で、一転割り、一転回転割り、二点三角割り、三点四角割りなどが見受けられるが、三点四角割りを行う者は、これを専門として行い、ガラスの割れ口で手を怪我しないように四角部分を外す工夫をしており、侵入手段のベテランと言える。新たな行為の成功は、ジンクスと重ね、これを繰り返すようになる。

人は誰でも緊張すると便意や尿意を催すが、これは明らかに身体の衛生上の生理現象である。忍び込み犯が、家人の寝静まるのを敷地内でじっと待っている時に緊張や冷えから便意を催し、この用を樹木の陰などで済ませた後、すっきりした気分で犯行に及んだところ、たまたま上々の出来栄えであったことに縁起を担ぎ、その都度これを繰り返すようになるが、脱糞行為の特癖として手口分析をすることになる。

このような話をすると自らの生理現象の経験から、これを解消したら事務、現場などの作業が気持ち良く円滑に進んだことに思い当たる方が多くおられるのではないだろうか。泥棒は、これらを生理現象とは認識していない。ひとつの縁起としてこの行為を続けることになるから面白い。

このような手口観察から見た特癖を上げたが、人それぞれで必ずその人の癖が出るものである。犯罪手口の捜査官は、これを特癖として捉え、この習性を見極め、個々に分析をして犯人が誰であるか割り出していくのであるから泥棒稼業は絶対に捕まる。捕まるのが早いか遅いか。いつまで生き延びられかだけだ。