プロローグ
約九百万年前に起きた地磁気反転の時に何が起こったのか。
もし仮説一または仮説二であれば、地磁気反転時の変化の地層の厚さから、その現象がどの程度の速さで発生したのかが分かるはずである。ところが、採集した地磁気反転層の地層の厚さは計測不能な薄さであった。このことは、地磁気の反転と何らかの地殻変動が一気に起きたことを示している。
さらに、地磁気の反転層の上下の層の年代測定値にほとんど差がないことから、仮説三が成り立つには、考えられないほどの速度で地殻の隆起と崩落が起きない限りあり得ないのである。
七十七万年前のチバニアン地層に見られる地磁気反転などは、瞬時に反転したのではなく、徐々に進行して反転したことが分かっている。それに、今現在は徐々に地磁気極の移動が始まっているという観測結果も得られている。しかし、それは、ゆっくりと数百年あるいはそれ以上の時間をかけて反転する。そのメカニズムは、よく分かっていないが、地磁気の発生を引き起こしている地球の外殻液体層での荷電流体の流動、すなわちマントル対流によると推定されている。
原因は太陽の磁場の変化が引き金になるという学説もあるが、明確になっているわけではない。しかし、アラン教授が発掘した地磁気反転層のデータは、約九百万年前には、磁極反転に伴って地軸移動が起きたのではないかと推定されるものであった。
その場合でも、磁極の反転に伴って、地球の自転の地軸そのものが移動した可能性、あるいは地軸は変わらないが上部の地殻だけがずれた可能性が考えられる。そして、それらはどういうメカニズムで発生しうるのかについての色々の議論を巻き起こした。
二〇四一年春、アラン教授の学会発表に衝撃を受けた地球物理学者たちは、世界各地の他の地点での地層調査を行うべく、世界中で候補地の選定が検討され、各地で発掘が始められた。