約束の時間に少し間があったので、家の南側にある庭に回った。木や花が植えられているわけではなく、ただ砂利が敷いてあるだけだ。庭に面して日当たりが良さそうな茶の間を窺った。ガラス戸が開いていたので、部屋の中をすっかり見ることができた。

四畳半ぐらいの小さな部屋で、家具といえば中央にテーブルが置いてあるだけ。正確には、テーブルではなく炬燵のようだ。さすがに、掛布団は外してある。きっと一年中、そのままなのだろう。おまけに、真夏だというのに、テーブルの右横には火鉢があった。部屋の中に本や雑誌が山積みされている。

あとは小型テレビが一台。高校野球の中継をやっていた。畳はかなり年季が入っているみたい。黴の臭いが庭まで漂ってきそうだわ。庭に背を向けて座椅子が見える。

その背もたれに、禿げ頭が載っかっていた。ちらり、と横顔がのぞいた。毛が薄いのは頭のてっぺんだけで、白髪を伸ばし放題にしている。ところどころ黒い髪が残っているものの、色が抜け落ちて茶色がかっていた。その長い髪を虹色のバンダナで一括りにした仙人の、やや面長で頬のこけた顔には、ヤギ髭が生えている。いかにも世捨て人らしい風貌だ。仙人はこうでなくっちゃ。ちょっぴり嬉しくなった。

気温三十度を超す真夏の昼下がり。伝説の仙人・只野亀春翁ただのかめはるは、テレビをつけっ放しにしながら、口をポカンと半開きにして、気持良さそうに軽くいびきをかいていた。