国田克美という女
国田は来年二月末に第一期生が看護師国家試験を受験するに際して、絶対に百%合格を目指す以外に学校の将来はないと思った。]
三月には第三期生の四年生への進級判定を如何にすべきか思案した。
できの悪い学生は留年させても良いが、学生本人や保護者から恨まれても必ず実行すると決意を新たにした。
久船の提案した推薦入試も考慮しないといけないと思ったが、勝気な性格の国田は自分は医師とは対等な立場を堅持していることと医者嫌いということもあって、それを認めれば久船に敗北したことになるため、意地でも拒否して、新たな対策を模索していた。
その対策として、次々年度の入試(第六期生)の前には近隣の高等学校を訪問し、進路指導の担当教諭に国家試験百%合格を伝えて、受験生の増加を目論むことにした。このために国田は国家試験百%合格への闘志を異常な程に高揚させることになった。
結局、この度の入試結果としては第四期生は六十三人中四十八人合格させたが、入学したのは定員通りの四十人であった。競争率の低下に村山、久船、国田の三人は多少なりともショックを受けていた。
国田は第一期生の成績不良学生七人選定し、「このままでは留年は確実ですよ」と伝えた。
次に二月中旬に保護者に連絡し、事情を説明して個別に改めて面接をすることにした。七人の保護者を同時に集めることはせず、個別に時間を一人二十分程度と定めて面談を実施した。国田は、次のように各保護者に話した。
「この度お呼び立てしましたのは、お宅のお子様の成績に関することでございまして。結論から申し上げますと、当校の学業成績評価は大学と同じで、優、良、可、不可となっておりますが、お子様は〝可〞すなわち六十〜六十九点の評価が多いのです。実際は再試験を多く受けており、やっとのことでお情けで六十点評価を各科の先生方にしてもらっているのが現状です。三年生にはなったものの、このままでは、四年生への進級は困難かと存じますので、本人への成績の説明はすでにしておりますが、初心に返って勉学に専念するように話していただきたいと思います」
その後、国田は家族構成、家庭の事情や環境など、根堀り葉堀り上手に問いただし、このような情報を今後の学生指導を徹底するための一助としたのである。
こうして国田は学生管理を徹底し、自分が看護師への育ての親であることを保護者にも認識させて、学生をも保護者をも掌握して就職活動にも関与しようと企てていた。具体例として、Z子の保護者については、国田は次のような報告をした。
「お宅のお子様は、実習レポートが書けないようです。看護実習には各々の学生にテーマがあります。そのテーマについて患者さんの状態を記録します。例えば手術後の尿量測定を三日間したとします。尿量の変化や比重を記録して、正常な尿量が維持できていれば良いのです。尿量減少が見られた場合にどのようなことが想定されるかなども、レポートに書く必要があります。しかし、お宅のお子様は自分なりの考察が全く書けていないのです。レポートの提出期限を過ぎても尿量測定値のみを記録しているだけです。今までの○×式の問題や五つの解答から一つを選択する問題、すなわち五択の試験で進級できましたが、レポートとして自分の意見や考え方などを述べることができなければ、実習単位が取得できず留年になりますのよ」