【前回の記事を読む】親友の恋人は親子…「正直、面白い。」鉄板で笑えるネタな理由
第四章
「サキちゃん、お元気ですか?」
それは二年以上ぶりの「霞」のママ――律子さんからの連絡だ。一日でいいから栄美華とお店を手伝って欲しいということだ。二つ返事で了承した。
「急にごめんね、珍しく団体さんが入っちゃって」
月曜日だったので週末のみのベテラン陣は対応できず、女の子も足りていなかった。私と栄美華はたった数回、二年以上前に働いただけなのでただの数合わせにすぎない。二階のボックス席でママ達が接客をしている間、私と栄美華は一階のカウンター裏で店番をした。引き戸が開く音がして二人で擦りガラスを見張ると裕幸さんが現れた。
「いらっしゃいませ!」
栄美華は元気よく挨拶をしておしぼりを手渡し、その間に私はお通しとボトルセットの準備をする。裕幸さんの接客なら普段と同じ対応でも、律子ママにさえ勘づかれなければ良い。気が楽になった。
「栄美華ちゃんもうすぐ誕生日だよね。八月七日は予定開けておいてね」
その一言から私たちは誕生日占いだの、相性占いなどの話題で盛り上がった。すると田所さんの誕生日をまだ聞いてないことに気づいた私は裕幸さんに尋ねる。
「オヤジは三月で五十二歳になるよ」
「五十二歳? 間違いなく?」
「うん、五十三だっけ。忘れちゃった」
「親の年齢くらい覚えておいてよ」
田所さん五十二歳だったの。私には四十二歳って言っていたのに。衝撃的な事実に私の笑顔は引きつっていた。栄美華と裕幸さんの会話は耳に入ってこなくなり閉店時間までなんとか耐えた。