合気道道場
日本古来より多くの武道が行われてきた。剣道、柔道、空手、合気道等のように多くは個人の技術や強さを求めるものが大半であり、常に自らを切磋琢磨し、時には相手を倒すことを目的として体系が作られ、技や技術が磨かれてきた。
礼儀作法や日常生活での営みの多くも武道の精神を取り入れ、謙譲の精神や相手を重んじる心が培われ、災害時にもパニックや暴動が生じることがなく、食料や生活必需品の配給時にも礼儀正しく整列して自らの順番を待つ姿がテレビ等で報道されるにつれ日本人の美点が伝えられてきた。海外では人々は自らの生存を重視し、自己主張することが多く、日本人が海外で苦労する一因とされてきた。
今やインターネットを使えば外国人でも日本人の考えや習慣を知ることができるようになり、国籍の境目がなくなりつつあるようだった。日本人は謙譲の精神を重んじるばかりに他人に譲ることが多く、自らの意見を言えず常に後塵を拝しているように感じていた。子供たちは多国籍に交わることが多くなり、積極的に意見を述べ合い、交友を広く持ち国際感覚を身に付けようとしている。次第に人に対する思いやりや謙譲の精神が薄れ日本人の美点も霞んでいくと思われる。
佐久間遼太郎は自らが空手を修行してきたことが人生において貴重な経験と感じていた。娘の結衣にも何か経験させたいと考え、合気道をさせることにした。子供たちが日々成長し、一人ひとりがいろんなことを考え、自己中心な人間関係に友だちや周りの人に対する関心が芽生え始めた。
結衣が合気道を始めて、道場の中にもたくさん友だちができた。津路仁と柳下清という二人の男の子。二人ともとっても真面目なのだが、津路君は優しいのが稽古にも現れ、相手のことを考えているのでいつも力を抜いてしまい注意されている。柳下君はマイペースで稽古のペースから遅れがちだ。二人と結衣は仲が良いことからいつも三人で話をしていて先生から注意を受けていた。道場の中でも結衣が中心になり稽古をしているようだ。ある日の道場の中を覗いてみることにしよう。
「稽古を始めるから、少年部、整列」
先生の号令が飛び、佐久間結衣、津路仁、柳下清、高田舞、野中恵子、城田優が先生の後ろに整列している。
「目を閉じて、はい、開けて下さい。神前に対し礼、先生に対して礼、お互いに礼」
先頭に並んだ結衣が声をかけた。子供たちは道着を着て、白帯に道場の名前と個人の名前が入れられている。帯の結び目も先生から注意を受けながら結んでいるようだった。
「体操、始め、最初に手足をぶらぶらさせて、一・二・三・四、五・六・七・八、二・二・三・四、五・六・七・八」
先生と子供たちの声が飛ぶ。
「はい、稽古始めます。最初に右半身構え、直れ、左半身構え、直れ、右半身構え、直れ、左半身構え、直れ、次、臂力の養成一、一・二」
先生のかけ声で子供たちが一生懸命に先生の気合に答えている。少年部では基本を中心とした受け身や基礎運動等の稽古が行われており子供たちの体力の養成に努めているようだ。子供たちはお互いに技をかけ合い、受け身の練習を行っていた。お互いに手を前に出し、手首を掴む動作や相対に構え合い、手刀を相手に打ち込み受ける練習を行っていた。
「佐久間結衣と津路仁、柳下清と高田舞、城田優と野中恵子でお願いします。始め」先生が組み合わせを伝えた。結衣と仁がお互いに礼をして気合を入れる。「エイ」結衣の気合で手刀を仁に打ち込んだ。仁は結衣の手刀を見失い、おでこに当ててしまったようだった。