合気道道場
清は泣き顔になりながら結衣の方を見ていた。結衣は笑いながら清の腕を取り、手を掴むと二ヶ条に抑え込んでいた。
「二ケ条抑え(合気道の抑え技、手首を中心に下方向に抑える技)、先生、これで良いでしょ?」
結衣は館長の中村忠道に確認を求めた。
「どれどれ」
館長の中村は笑いながら結衣の持ち手を修正した。
「あ、まいった、まいった、痛いから止めてよ」
清は涙目になりながら叫んでいた。結衣は清から手を離し、ごめんと謝っていた。
「もう、結衣ちゃんは乱暴なんだから、そんなことしたら僕のお嫁さんにしてやらないぞ」
「え、いつ、そんな約束した? キヨちゃんよりジンちゃんのほうが良いもん」
結衣は近くにいた仁に視線を向けた。仁も嬉しそうに笑っていた。中村もそんな子供たちを笑いながら見ていたが、あまりにも脱線しているのを見て注意した。
「ほら、稽古しなさい。じゃあ、さっきの続きね、結衣ちゃん気合を掛けて」
「はい、始めます。さっきの組合わせでお願いします。仕手の人は気合を掛けて下さい」
「エイ」
子供たちの気合が飛び、稽古も真剣に行われていた。少年部は基礎的な反復練習を繰り返して基礎体力の向上や姿勢を正しく保つことを目的としていた。道場では簡単な受けや手刀での打ち込み、体捌きを練習していた。
「じゃあ、整列して。はい、結衣ちゃん、お願いします」
中村は結衣に号令を促した。
「並んで、神前に対し礼、先生に礼、ありがとうございました」
結衣は正座をして先生に対し床に指で三角をつくり、そこにおでこをつけるようにしてお辞儀をした。他の子供たちも結衣に続きお辞儀をしていた。
「お互いに、礼、ありがとうございました」
結衣は皆の方に姿勢を向けお辞儀をした。
「ありがとうございました」
清と仁が大きな声で答えた。
「疲れた~、早く帰ってカツカレー食べたいな」
清は支度をしながら仁に話していた。
「もう、カレーばっかじゃん、たまには他のものにしたら」
「だって、カレーが最強だぜ、栄養もあるし、結衣ちゃんもそう思うでしょ?」
支度を終え近くにいた結衣はニコニコ笑いながら話を聞いていた。
「ねえ、結衣もカレーは大好き、でもお肉も好きだよ。焼肉とか良いな」
「だね、キヨちゃんはカレーばかりだけど、焼肉も良いよね」
「こら、こら、早く支度しなさい、お母さんたちが待っているから」
中村は盛り上がる子供たちを笑いながら注意した。子供たちも中村の声を聞き大急ぎで身支度を整え始めた。身支度を終えると大きな声で挨拶しながら道場を後にしていった。この後、一般部の稽古が行われる。