卑弥呼は冷静に話を続けた。

「ところが一つだけ特別の剣があるはずなのですが、どこかに隠してあるのでしょう。後で必要になるのでその時はお願いしますね。

次に、邪馬台国の件について話します。随分と昔から論議があるようですが、何がその者たちを駆り立てているのか、私には全く理解ができません。なぜなら、現実に倭と呼ばれた国とは小国が集まった連邦国家ではなく、女王である私自らが指揮して西日本のほとんどをまとめ上げた統一国家だったからです。

また、その過程で支配下に置いた国にも、邪馬台国などといった国名はありませんでした。いうまでもなく、そのような地名も聞いた覚えがありません。敢えていうなれば、『魏志倭人伝』が書かれたその時に、私がいたところが邪馬台国です。私は支配地の視察のために、特定の場所にそう長く逗留することはありませんでした。

こちらから見れば、邪馬台国と言われた国が、どこにあろうと特定することにはそれほど大きな意味があるとは思えないのです。それでも取り憑かれたように邪馬台国を語る人たち、あれはマニアというしかありませんね。あなたもその者たちと同類なのですか」

怒られてしまった。佳津彦にも少なからずそんな思いがあったが故に、それを言われてしまうと二の句が継げない。またうつむいてしまった。しかし……。

「その論議が楽しいんだけどなー」

佳津彦は小声でつぶやいた。すべてお見通しの卑弥呼は、聞こえなかったふりをして笑いをこらえるように顔をそむけた。

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